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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1988年(First Prize)
レイモンド・カーヴァー「使い走り」


ロシアを代表する作家のひとり、アントン・チェーホフが病の床に伏せ、死に向かう姿を描いた作品。
1897年3月、親友のアレクセイ・スヴォーリンと食事にでかけたチェーホフは、そこで突然、何の前触れもなく吐血してしまう。スヴォーリンは彼を自分の泊まっているホテルに連れて帰り休ませるが、再度吐血。以来、診察・療養を繰り返す。
1904年6月、彼は夫人のオリガを伴ってドイツ・シュヴァルツヴァルト地方にある温泉保養地、バーデンヴァイラーを訪れる。そこは彼が死に場所として選んだ地だった。1カ月ほど経った7月2日未明、チェーホフの体調が悪化。オリガは急いで医師を呼んで診てもらうが、もう手遅れのようだった。医師はホテルスタッフにシャンパンを持ってこさせ、3人で最後の乾杯をする。「シャンパンを飲むのなど実に久しぶりだな」そう言いながらゆっくりと唇にグラスを運ぶチェーホフ。その後、すぐ彼は絶命してしまう。しばらく彼とふたりきりにさせてほしいというオリガの願いを聞き入れ、医師は部屋から姿を消した。
夜が明けた次の日の朝、ドアにノックの音が聞こえる。そこにいたのは数時間前にシャンパンを運んできた青年だった。青年が「グラスとバケツと盆を下げに参りました」と話しても、心ここにあらずという体のオリガ。彼はオリガと共に滞在している男が絶命し、ベッドに横になっていることなどゆめにも思っていない。そんな彼に、現実を飲み込んだオリガはある使いを頼むのだった。
編訳者である村上春樹氏の解説によると、この作品はカーヴァーの最後の短編だそうだ。自分が癌に冒されていることを知ってから、一字一句確かめながら書いたであろう作品だ。チェーホフの死にざまと自分が置かれている状況を比べ、カーヴァーは何を思い、何を考えながら書いたのだろうか。
(村上春樹訳/中公文庫『CARVER'S DOZEN─レイモンド・カーヴァー傑作選』及び中央公論社『象/滝への新しい小径─レイモンド・カーヴァー全集6』所収)
                           (2003.10.24/B)

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