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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




2000年
レイモンド・カーヴァー「薪割り」


アルコール依存症のため、28日間禁酒施設で過ごし、“素面”になって戻ってきたマイヤーズだったが、妻に愛想をつかされ家を追い出される。彼は身の回りのものだけをスーツケースに詰め込んで、新聞の貸間広告で見た部屋に間借りする。部屋からは遠くに樹木が生い茂った谷間と山の稜線が見え、近くを流れる川の水音が聞こえる他は何も聞こえない、とても静かな場所だった。マイヤーズは仕事らしいことは一切何もせず、大家夫妻が仕事に出かけた後、キッチンに行って朝食にシリアルとコーヒーを摂る。そして二人が家に帰ってくるなという頃にサンドイッチを作って食べるという単純な生活を送っていた。
ある日の午後、荷台にひと山の丸太を積んだトラックが家にやってくる。運転手はマイヤーズを見つけ、ソル(大家の名前)が裏庭に置いておいてくれと言ってたと言う。
その日の夜、マイヤーズはソルにあの丸太をどうするつもりか聞いてみた。ソルは突然やってきて声をかけたマイヤーズに一瞬驚いたが、「ああ、あれはのこぎりで切って、積み上げておくんだ」と答える。「よかったら私にやらせてください」と懇願するマイヤーズ。「手間賃みたいなのは払えないよ」というソルに、マイヤーズは「それはかまわないです」と答える。
翌朝、大家夫妻が家を出た後、マイヤーズは薪割りの仕事にかかる。のこぎりのスイッチを入れ、丸太をひき、斧で割る。そうした一連の作業をずっと続ける。そして大家夫妻が帰ってきた時には、作業はもうほとんど終わりに近づいていた。
太陽が沈み、月が山の端に顔を出した頃、マイヤーズは最後の丸太を終わらせた。そして二人に「明日か明後日にはここを出ていこうと思うんです」と話すマイヤーズ。「そういうことになるだろうという気はしていたんだ」。そうソルは言った。
“日が暮れる前に終えてしまおう。これをやれるかやれないかは、俺にとって生きるか死ぬかの問題なんだ”と覚悟を決め、薪割りの仕事にかかるマイヤーズ。この仕事をやり遂げることで、これまでの自分と決別し、新たな一歩を踏み出そうとするマイヤーズの姿に共感を覚えた。
(村上春樹訳/中央公論新社『必要になったら電話をかけて』所収)
                           (2004.5.3/B)

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