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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1945年(First Prize)
W・V・T・クラーク「風と雪」


マイク・ブラニーンはゴールド・ロックの町に通じる坂を、ロバのアニーとともに上っていく。マイクはよい鉱脈を掘り当てるために毎年山の中を歩き、風雪が厳しくなる冬に町に戻るのだ。
彼はこうした生活を50年以上続けている。その間、旅の道連れとして非常に多くのロバと出会い、またさまざまな事件に遭遇した。なぜか旅の思い出として記憶していることは、はるか昔のことばかりで、例えばアーマンディという名の娼婦と過ごした夜のことは鮮明に覚えていた。
毎冬、山を下りると、まずジョン・ハマースミスの馬小屋にロバを入れ、そしてライト夫人の家に行き、身だしなみを整える。彼にとって、それはこの町の住民に戻る儀式のようなものだった。それから夕食を食べた後、トム・コノーヴァが経営するラッキー・ボーイ酒場に行くのだ。マイクを見つけたトムは、「彼が現れると、冬が来たというのが分かる」と言い、「なにを飲む?いつものやつかい?」と彼をいつも歓迎してくれた。
今年もそんな光景を思い描きながら山を下りてきたマイクだったが、いざ到着すると、ゴールド・ロックの町の灯りは少なく、閑散としていてかつての活気が消え失せていた。彼は人間と同じように年老い、いつかは滅びてしまいそうなこの町に自分自身を重ね、同じ境遇にあるものとして共感を覚える。
マイクはトム・コノーヴァの店を訪ねようと、アニーとともに酒場に向かったが、あるはずの場所に店がない。しかし、よく見るとラッキー・ボーイと記された看板がアーケードの下にかけられてあった。マイクはちょうど近くを通った男性に尋ねてみると、彼から意外な言葉が返ってくる。
「トム・コノーヴァじいさんは今年の6月に死にました。」
頭が混乱するマイク。そして「ライト夫人の家にゆくにはどの道を行けばいい」と聞くと、男性はこう答えるのだった。
「だいぶ前に亡くなられましたよ。」
生涯を旅に費やす男と、途切れることなく流れ続ける時間。物語の底流に広がる詩的イメージが心地よく、大人の作品に仕上がっている。
(海保真夫訳/白水社『現代アメリカ短編選集I』所収)
                           (2004.5.14/B)

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