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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1970年(First Prize)
ロバート・ヘメンウェイ「ビートルズと歌った女」


かつて、さまざまな場所でダンス・バンドの歌手をしていたシンシアと、元英語教師で現在は市場調査会社に勤めるラリー。年齢が一回り近くも離れ、世代はもとより、多くの面でそれまで違う世界に生きてきた二人だったが、それらの隔たりを越え、1962年の夏に晴れて結婚した。しかし、世界はやはり違っていたのだ。今の生活における唯一の楽しみはテレビを見ることだけというシンシアは、「そのテレビすら私と一緒に見てくれない」とラリーに不平をもらしている。彼女曰く、「それは私が好きじゃないからだ」と。
それからシンシアは日増しに精神を病んでいく。“どうして彼女を愛していたのだろう”と自問するラリーは、ひとつの結論にたどり着く。それは彼女がすごく“アメリカ的”だからではないかということだった。コーンビーフのこま切れ、アカデミー賞、ミス・アメリカ・コンテスト…。彼女はアメリカ的なものが大好きだった。ラリーはそんな彼女をポップ・アメリカの象徴として愛していたのだ。
ある日、大きな事件が起こる。珍しく二人一緒にイタリア料理の店で昼食をとっていた時、心酔していたケネディ大統領が暗殺されたという速報が、店に置かれたテレビに流れたのだ。二人はそのままアパートに帰り、何時間も泣き続けた。
ラリーの涙が涸れてしまった後も、連日テレビの前で泣き続けるシンシア。それを見ていたラリーは、シンシアを元気づけるために、エド・サリバン・ショーで見てからファンになっていたビートルズのレコードを買ってきてやる。シンシアは毎夜ビートルズを聞くようになり、ついには自分がビートルズの一員であるかのような幻想に取り憑かれてしまう。“自分はもはや彼女を愛してはいない”と認めながらも、どんどん狂気じみていく彼女をどうしても放っておけないラリー。彼は、お互いの心が離ればなれになってしまうよりも、彼女の狂気を二人で分け合った方がよいと思うようになるのだった。
私はこの作品を読んで、ある意味でアメリカの象徴であるケネディ時代が生んだ、ひとつの愛の形を見た。
(安達昭雄訳/角川文庫『ビートルズと歌った女』所収)
                      (2004.9.3/B)

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