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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




2001年
ジョージ・ソウンダース「パストラリア」


おれの仕事はテーマパーク内にある洞窟で原始人としての生活を演じること。ジャネットという中年女と夫婦になり、支給される山羊の肉を焼いて食べたり、小さな虫を捕まえては口に入れるふりをしたりしている。もちろん、言葉を発することは御法度。舞台裏にある控え室を出た瞬間から、原始人らしい振る舞いをしなければいけない。時には話したくなる衝動に駆られるが、ルールはルール。真面目にここのルールを守っている。しかし、相棒のジャネットはこの生活に不満たらたら。ルールをそれほど重く思っていないらしく、おれにはもちろん見学者にまで口を聞く始末だ。毎日パートナーに対する評価を書いて会社にファックスで報告しなければいけない決まりなのだが、彼女のことを思って毎回「ひじょうによい」と書いて送っている。
そんな毎日を送る彼らだが、最近は山羊肉の支給も滞りがちで、毎日が隔日になり、2日おきになっている。客の入りが少ないせいか経営がうまくいっていないらしく、従業員のリストラも始まりだした。経営管理をおこなっているノードストロームはジャネットの勤務態度に不満を抱いており、彼女をクビにする正当な理由を得るために、おれからの彼女の「本当の」評価を迫っているほどだ。
これまで彼女に対する評価に連日「ひじょうによい」と記載していたが、ある日、ジャネットをかばいきれない事態が起こった。彼女が見学者と口を聞き、ケンカ沙汰になってしまったのだ。その話をノードストロームが耳にしているのは必至で、このまま虚偽の報告をしていると、おれだってクビになりかねない。おれは意を決して「本当の」報告をすることに決めた。
原始人として、恋人でも何でもない異性と二人で生活するという特異なストーリー設定だが、経営者がいて労働者がいるという構図は、私たちが実際におかれている“この”社会と同じ。職場環境が違うとはいえ、一労働者であるおれの立場に、おかしくも悲しくなってしまった。
(法村里絵訳/角川書店『パストラリア』所収)
                           (2004.7.18/B)

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