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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1934年
ジョン・スタインベック「殺人」


中央カリフォルニアのモンテレー郡に住む大地主、ジム・ムーア。彼の両親は彼が30歳のときにはすでにどちらも死んでいた。ある日、彼はそれまでに飼っていた豚をすべて売り払い、家畜を改良するためにりっぱな雄牛を一頭買った。そして土曜の晩にはモンテレーの町に出かけて行き、酒を飲み店で女の子とおしゃべりをして楽しんでいた。
その後、彼はイェルカというユーゴスラヴィアの女性と結婚する。彼女はアメリカ人の女性と違って、とても静かで自分から口を開くということがなく、ただ彼から何か聞かれたときに答えるだけだったが、彼が何かほしいという前にちゃんと用意してくれるような、よく気がつくできた女性だった。
そんな彼女は彼にとって申し分のない妻であったが、よき話し相手というわけではなかったため、結婚してから1年経った頃には、ジムはモンテレーの町に出かけ、店で酒を飲んだり、口うるさくて下品な女性たちとぺちゃくちゃ話したくてしょうがなくなっていた。そこでいつも土曜の午後になると、決まって町に出るようになる。彼が出かける時も、妻のイェルカは「どこに行くの」など何も聞かない。ジムは自分がどこに行こうとしているのか、彼女は知っていると感じていたが、彼女は口に出して何か話すというわけでもなく、喜んだ表情を見せるわけでもないため、彼女がどう思っているか図りかねていた。
そして6月のとある暑い土曜の夕方。仕事を済ませたジムは『馬に乗っていきゃ、9時ちょっとすぎには着けるだろうさ』と言って家を後にする。
しかし、道中、自分の牧場で飼っている子牛が焚き火で燃やされてしまっていることを、知り合いのジョージから知らされる。
ジムは自分の家畜がこんな目に遭っているのを何とかせねばと、急遽、町に行くのを取りやめ、家に引き返すことにした。しばらく進むと、月明かりを通して彼の家が見え始める。下を見ると、彼の家と納屋の屋根がぼんやりと光り、寝室の窓からは一筋の光がもれているのだった。
その後、物語が進み、読者はひとつの“殺人”ケースを目の当たりにすることになるが、そこで描かれている光景は、まさにこの時代ならではといえる“因習”に支配されているように思える。
(龍口直太郎訳/創元推理文庫『犯罪文学傑作選』(エラリー・クイーン編)、大久保康雄訳/新潮文庫『スタインベック短編集』所収)
                      (2003.9.12/B)

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