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「あの手この手(The Ordeal of Osbert Mulliner)」(1928)


マリナー氏が今回話し始めたのは甥のオスバートのことだった。マリナー氏はオスバートが結婚する前にぶち当たった障害が、現在の彼らの幸せな結婚生活を形成しているのだと言うのだ。
さて、オスバートはペセリック・ソームス家のメーベルという女性と婚約をした。二人の婚約については親の反対があるわけでもなく、その後、順風満帆に結婚生活を送れるはずだった。しかし、そこに問題が生じる。メーベルのいとこでバシュフォード・ブラドックという名の男の存在だ。
彼は長い間中央アフリカを探検していた男で、右手を三角巾でつり上げた状態にもかかわらず、片手一本で豹と戦い、絞め殺したことがある猛者だった。そんな彼からメーベルとの婚約を破棄しろと迫られたのだ。
「マリナー君、君はあの児を愛しているね」
「愛している」
「僕もだ」
「君も?」
ブラドックは小さな頃からメーベルを愛していて、今後もし誰か二人の仲を邪魔する男が現れたら、ムガンボ・ムガンボの王にしたようなことをすると言うのだ。
「君が彼に何をしたと云うんです」
「聴かん方がいいぜ」…

…ブラドックと別れた後、オスバートはメーベルをあきらめることにした。そして別れの手紙を書くのだった。
日付は変わって、ロンドンの第一便が配達される頃。彼は一本の電話で起こされると朝食をとった。その時、オスバートのもとに召使いのパーカーがやってきて、訪問客のあることを彼に知らせる。その訪問客とは陸軍少将のマスターマン・ペセリック・ソームス卿、つまりメーベルの伯父だった。オスバートは「誰が訪ねてきても留守だと言え」とパーカーに伝えていなかった自分を呪ったが、もう遅い。
卿は一目見ただけでとても怒っている様子がうかがえる。卿は開口一番、例の手紙について話し始めるのだった。
「マリナー君、姪のメーベルが君から不思議な手紙を貰ったそうじゃ」
彼は手紙の内容について、続けてオスバートを問いつめる。
「…君は姪の感情を弄んで居ったのだな、マリナー君。…わしは前から誓っていたのだ。もし誰かがどの姪かの感情を弄んだら、必ず…。…君はウォーキンショー大尉の事を聞いた事があるかね?」
「いいえ」と答えるオスバートに、
「彼はわしの姪ヘスターの感情を弄んだ。わしは彼を桃源倶楽部の階段の所でつかまえ、馬の鞭で引っぱたいてやった。…ところで、マリナー君、君の倶楽部はどれじゃね?」
「翡翠蒐集連合倶楽部です」
「階段があるかね」
「あると思います」
「結構、結構。…ところで、君がわしのメーベルと婚約したという発表が明日のモーニング・ポスト新聞に出る。反駁しようものなら…」
そこまで言って卿は部屋を出ていった。…
メーベルと結婚するか、婚約を破棄するか。そのどちらを選択しても命の保障がないという窮地に陥ったオスバート。はたして、この窮地から脱する策はあるのだろうか?
マリナー家の人間だとは思えないオスバートの行動を見ていて、はじめのうちは情けなく感じるが、最後の最後はさすがマリナー家の血を受け継いでいるだけのことはある、この立ち回りの見事さ。それにしても、マリナー氏には何人の甥がいるのだろう。一度、家系図を書いてみたい。

★所収本
・長谷川修二訳/東成社『玉子を生む男』(あの手この手)

                      (2005.8.29/菅井ジエラ)

 

 

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