アジア文学を読む



ソット・ポーリン『ひとづきあい』



何ヶ月もの間、僕の頭から離れないあるイメージ。それはとても壮大で、「鬱蒼とした森に覆われた大きな山々」であったり、「太陽の光に照らされて輝き落ちていく滝」であったり、「ありとあらゆる動物が群れをなす姿」であったりする。そしてそれらの向こうには大クメール帝国が見え、僕は都シエムリアプの真ん中に高くそびえるアンコールを眺める。
そんな想像力も現実の世界では何の役にも立たず、僕はすっかり落ち込んでいた。そこで、ついに職場の同僚で永らく恋心を抱いていたサリーに悩みをうち明ける。もちろん、僕の頭に中にあるイメージについて話すのではなく、「毎日が退屈で、孤独で頼りにできる人もいなくて寂しい」と話した。
サリーは厳しい態度でこう答える。「ヴァンナー君って、ひとづきあいが全然できないのよ」
そして彼女は僕に救いの手を差しのべてくれた。「明日職場の友達の…(省略)…とカエプ(カンボジアの一大リゾート地)に行くんだけど、ひとづきあいについて知りたいなら、ヴァンナー君も一緒に来て、私たちの真似をすれば?」
僕は彼女の提案にのって、カエプまで同行することにした…。
リゾート地に向かうまでに車内でかわされる彼らの言葉には、カンボジアの若者の文化や風俗がちりばめられていて興味深い。車の話、映画の話、煙草の話…。同じアジアでありながら、(私的には)タイやベトナムと一線を画し、少し遠い国というイメージがあるが、この作品を読む限り、日本の若者とまったく変わらないという印象を持った。
(岡田知子編訳/財団法人大同生命国際文化基金『現代カンボジア短編集』所収)
                      (2004.9.29/B)

 

 

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