志賀直哉を読む




「痴情」


彼はなかなか決められなかった。
「このことをどう処置すべきか」
妻帯者である彼には、外に女がいた。祇園の茶屋の仲居をしている20歳か21歳の女だ。
妻は今、その事実を知っている。

自分が女を“念ひ断る(おもいきる)”ことができればよいのだが、それができない。
素直に別れるということができない。
縁を切ったと嘘を吐いて妻を欺き続けることもできないし、このような関係を妻に認めてもらうということも無論できない。
妻は、そんなことは金で解決できるので、今日中にきれいに清算してきてほしいと言っている。
興奮した顔で訴え続ける妻に急かされた末、彼は到底意を決したとはいえない心持ちのまま、女の所へ別れを言いに行き…。

小説の世界でしか出会えないと思えるほど、夫に愛情を注いでいる妻に、
可能であれば祇園の女とも関係を続けたいと願う優柔不断な夫。
彼は妻を愛する気持ちは十二分に備えているのだろうが、半ば不道徳的だともいえる。
一見、物語の結末に、この夫婦の今後の良好な関係が見て取れなくもないが、それは志賀直哉の筆によるだけであって、
現実を重んじて言えば、この夫婦に幸せな未来はないように思う。

この作品は、何編かある不倫ネタもののひとつ。
「志賀直哉の不倫ネタ作品にみる当時の男性優位社会」といった題目で、学士論文を書く学生が出てきても良さそうだが…。

登場人物

彼の妻


                      (2007.3.17/菅井ジエラ)

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