「ドロイトゲート鉱泉のロマンス(Romance at Droitgate Spa)」
(1937)
フレディー・フィッチ=フィッチは、伯父にして後見人であるサー・エイルマー・バスタブル少将を訪ねにドロイトゲート鉱泉に赴いた。ドロイトゲート鉱泉は、バーデン=バーデンやホット・スプリングスと並ぶ有名な保養地で、伯父も通風病みの足を治療しにこの地にやってきていたのだ。フレディーが伯父を訪ねた目的は、アナベル・パーヴィスと結婚するため信託財産を引き渡してほしいとお願いするため。しかし、伯父は奇術師のアシスタントをしている娘との結婚なんて許さないと言ってきかなかった。
「わしのたった一人の甥が、つまらんニッコリ金魚渡し娘に誘惑されおったか! ハッ!」
困ったフレディーは、策を講じることにした。
アナベルが伯父に気に入られさえすれば、何の障害もなくなるというわけだ。
「だけど、どうやって?」
「もちろん伯父さんに尽くしてやるのさ。枕をならしてやる。冷たい飲み物を運んでやる。優しく語り掛け、お世辞を言ってやるんだ。……」
そして、アナベルが伯父の看護役として、素性を秘してドロイトゲート鉱泉に向かった日から3週間後、1通の電報がフレディーの許に届いた。
“気に入られた。すぐ来い。愛とキス、アナベル。”
すぐにドロイトゲート鉱泉に向かうフレディー。
伯父はフレディーとアナベルの結婚を承認し、後は必要な手続きを済ませるだけになったのだが…。
突如フレディーの前に奇術師モティマー・ラックスローが登場。さらにアナベルのジョー叔父さんがドロイトゲート鉱泉にやってくることが分かり、2人の婚約話はもつれにもつれていくのだった。
ウッドハウスお得意の素性を隠しての潜り込み作戦。今回、この作戦はこじれずに上手くいったのだが、最後にこんな結末が用意されているとは…。
この心理、日本人にもありそうだし、世界共通ということか。
★所収本
・森村たまき訳/国書刊行会『エッグ氏、ビーン氏、クランペット氏』(ドロイトゲート鉱泉のロマンス)
(2008.5.13/菅井ジエラ)
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