P・G・ウッドハウスを読む



「豪勇僧正(Gala Night)」(1930)


いつもの酒場でマリナー氏が話し始めたのは、甥のオーガスチンのことだった。オーガスチンはある村で牧師補を務めているが、彼がマリナー氏のもとに面白いことを書いた手紙を寄越したという。
それは、オーガスチンの妻がひどいおたふく風邪を患い、ハイペシアという名の彼女の学校友達が看病にきてくれていた時のことだ。ハイペシアはオーガスチンの教父である僧正の姪という間柄でもあった。彼女はロナルドという若い男と婚約しているのだが、彼らの結婚を僧正と僧正夫人がどうしても認めてくれない。僧正夫人曰く、町の清浄な空気を乱すようなナイト・クラブに通いつめて踊り明かしているような男とは結婚させられないというのだ。「私たちも舞踏会で知り合った」という僧正夫妻も、毎夜のように遊んでいるロナルドは結婚相手として許せないらしい。
二人の反対にあってはもうあきらめる他ないとしょげかえっているハイペシアを見て、あまりにも可愛そうに思ったオーガスチンは一計を案じることにした。つまり、マリナー特製の強壮剤「ちからの素」を使って何とか首尾よく事を運べないかと思ったのだ(「ちからの素」は“僧正と強壮剤”という作品にも出てきたバック・ユー・アッポのこと)。
その日の夜、オーガスチンはすっきりした頭で説教の下書きができるようにと、11時少し前には床に就いたのだが、真夜中に僧正の訪問を受けた。それにしても僧正の様子がおかしい。何やら挙動不審のことばかりするのだ。そして僧正は変なことを言い出す。
「(オーガスチンが昔パントマイムで使った)シンドバッドの衣裳を出しては貰えんかな?出来たら借りたいのじゃ」。
そうして僧正はその衣裳をまとい、出ていってしまった。オーガスチンは僧正の様子を見て不安になる。以前、銅像にペンキを塗ってしまって大騒動になったことを思い出したのだ。
こうなると、もう眠っているどころではない。オーガスチンは一階にある書斎に行って仕事をすることにした。すると、そこにハイペシアがいた。
オーガスチンは彼女がロナルドに会いにナイト・クラブに行っていると思ったと話すと、今晩はクラブに手入れがあるという情報が入ったので、二人して行くのをよしたという。オーガスチンは彼女にこれからの計画のこと、つまり今晩の夕食時に飲み物に「ちからの素」を2、3滴入れて僧正夫妻の機嫌をとる計画のことを話した。すると、彼女はすでに昨夜の夕食の際に飲み物に入れておいたというのだった。
「どの位?」
「そんなに沢山じゃないの。…両方とも大さじ一杯ずつよ」
「君は知ってるかい?大きい象の適量が小さじ一杯だっていうことを」
それで分かった、僧正の様子がおかしかった理由が。
「叔母さんも一時間ばかり前私の所へ来て、私のコロンバインの衣裳を貸して呉れって持って行ったわ」…。
マリナー特製の強壮剤が巻き起こす大騒動。どんな結末を迎えるのやら。
苦笑、失笑、爆笑…。いろいろな笑いがあるマリナー氏ものの中でも、大笑いの部類に入れられるであろう作品だ。

★所収本
・黒豹介訳/解放社『恋の禁煙─マリナー氏は語る─』、同訳/東成社『恋の禁煙』(豪勇僧正)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『マリナー氏の冒険譚』(仮装パーティの夜)

                      (2005.8.28/菅井ジエラ)

 

 

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