志賀直哉を読む




「范の犯罪」


范という名の奇術師が、数メートル離れた妻に向かって、体の輪郭を描くようにナイフを投げるという芸を披露していた時、妻の首にナイフがささってしまい、彼女はその場で即死。范は果たして殺意を持っていたのか、それとも単なる事故だったのかという話。
裁判官の事情聴取という形で話は進められるが、登場人物の心情表現がすばらしく、一級の推理小説を読んだような読後感がある。初出『新青年』と言われても納得してしまいそうな内容だ。同時代の作家である谷崎潤一郎や佐藤春夫らは数多くの推理(犯罪)小説を書いており、特に谷崎は私も好んで読んでいるが、この志賀直哉の作品は、それらの作品群と比べても遜色ない。「小説の神様」が犯罪を題材にして書くと、こんな作品になるという典型のような感じがする。
                      (2005.4.29/菅井ジエラ)

※小誌内企画“通勤・通学途中に読む、短編のすすめ”より再掲。

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