フランス文学を読む



アンリ・トロワイヤ「恋のカメレオン」



人生に疲れ果て、生きる希望を失ってしまったアルベール・パンスレが、自宅で首吊り自殺をしようとしたまさにその時、黒い服を着た見知らぬ小男が部屋に入ってきた。そして、男はアルベールを鉤から降ろし、彼に声をかけた。
「あなたはドアに鍵をかけるのをお忘れでしたね……」。

フォスタン・ヴァントルと名乗るこの男は、ある療養所からの使いとしてやってきたらしい。
「…オットー・デュポン教授の噂をお聞きになったことがございましょう?」
フォスタンの話によると、デュポン教授は身体の矯正以外に、薬によって性格をも矯正する療法を発明したのだという。しかし、これらの薬の効果を実験するためには多くの《性格実験体》が必要となる。つまり、アルベールに実験体として協力してほしいというわけだ。
アルベールは悩んだ挙げ句、好待遇が保障されている《性格実験体》になることに同意した。

翌日、デュポン教授の療養所に連れてこられたアルベール。間もなく彼はデュポン教授から実験についての説明を受けた。
「としますと、僕は十日目ごとに性格を変えるわけですか?」
購入依頼のあった性格にあわせた血清を調合し、それを実験体に注入。微調整を施しながら完成形を作る。そして十日間の安静期間がすんだら次の血清を注入するというのだ。
アルベールの記念すべき最初の血清は、“幾分うぬぼれと神秘的傾向の気味のある、絶大な自信家の血清”。その十日後には夢想家の混合薬が待っている。
しかし、これらの血清は人体に悪影響を及ぼさないのか?不安の色を隠せないアルベール。彼は恐る恐る実験に臨んだが、血清注入後、すぐにその効果が現れ始めた。…。

このように書くと、とてもおどろおどろしくて不気味なストーリーだと思うかもしれないが、それは私の説明が下手なため。
この後、アルベールのもとに同じく実験体をしている女性が登場し、物語はロマンチックなムードに。ユーモアが交わり、トロワイヤの新境地を垣間見たように思えた。
翻訳はフランス文学界のカリスマ、澁澤龍彦。これだけでも充分“買い”の一冊だ。
(澁澤龍彦訳/河出文庫『ふらんす怪談』所収)
                      (2005.5.2/菅井ジエラ)


 

 

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