P・G・ウッドハウスを読む



「南瓜が人質(The Custody of the Pumpkin)」(1924)


ブランディングズ城城主、第九代エムズワース伯爵の最大の関心事は城の庭園だが、それ以外で最近凝っているのが望遠鏡。今日も望遠鏡を覗いてはご満悦だった。しかし、彼の次男で厄介者のフレディ・スリープウッドが知らない娘と抱き合っているところを見てから急に虫の居所が悪くなる。
彼はフレディを捕まえて詰問すると、思ってもみない返事が返ってきた。
「…なにも怪しいことはありませんよ! …あれはぼくの婚約者です」
フレディーの言葉に喉の奧から絶叫を漏らすロード・エムズワース。しかもアギー・ドナルドソンという名の娘は、庭師頭アンガス・マカリスターの親戚だというのだ。
これまでフレディーについてはさまざまな良からぬ想像をしてきたが、まさか庭師頭の親戚という娘と一緒に教会の身廊を歩く自分の姿を想像したことはなかった。そんなことは到底許せない。
ロード・エムズワースは次にアンガス・マカリスターを捕まえ、彼に詰め寄る。
「いいか、マカリスター! よく聴け!あの娘を追い出すか、おまえが出て行くかだ。本気だぞ!」
その言葉に、マカリスターは辞表を付き出し、出ていってしまう。
ロード・エムズワースはマカリスターが十年の長きに渡って自分に忠実に仕えてきてくれたことにも何ら罪悪感を覚えず、感謝の念もなかった。マカリスターなどいなくても悔やむことはないと思っていた。
しかし…。その夜、ふと思ったのだ。
“アンガス・マカリスターが去った後、南瓜の運命はどうなる?”
エムズワース一族は、これまでに薔薇の賞は獲ったことがある。チューリップでも新玉ねぎでもある。しかし、農業祭の南瓜部門では一度も賞を獲ったことがなかったのだ。
だが、今年の南瓜は丸々と育ち、優勝を狙える位置にいる。そんな大切な時期に庭師頭を失うというのはロード・エムズワースにとって一大事なのだ。
彼は急いで新しい庭師を探しに自らロンドンに赴くのだが、マカリスターに代わる有能な人物はなかなか見つからない。庭師頭候補を何人も面接しては、次々と断り、悲嘆に暮れるロード・エムズワース。そこにフレディからの手紙だ。手紙は簡単な内容だったが、とても堪える内容だった。

「親愛なる父上
いや、ほんとに申し訳ないんだけど、もう待てなかったんです。二人乗りのスポーツカーにやって来て、今朝アギーと夫婦になりました」

息子の結婚、そして南瓜。ふたつの難問はいったいどのような形で解決されるのだろうか。
いわゆるブランディングズ城もののひとつ。ちょっと調子のズレたロード・エムズワースや、奔放な性格のフレディたちが繰りひろげるストーリーは、ジーヴスものとはまた少し趣が異なり、とてもいい味を出している。

★所収本
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『エムズワース卿の受難録』(南瓜が人質)

                      (2006.2.17/菅井ジエラ)

 

 

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