東欧文学を読む



イスマイル・カダレ
『誰がドルンチナを連れ戻したか』



時は中世、アルバニアのある村でのこと。当時、ヴラナイ家は国を代表する名家だったが、ひとり娘のドルンチナが遠国に嫁いで行った後、九人いた彼女の兄は全員相次いで死亡。今や母親だけが家名を守る存在となっていた。そんな中、突然ドルンチナが嫁ぎ先の遠国より帰ってくる。嫁ぎ先から村までは2週間ほどかかる距離。女性一人で戻ってこられる距離ではない。そこで「誰が連れ戻したのか」とドルンチナに聞くと、彼女は兄のコンスタンチンの馬に乗って戻ってきたと答えるのだった。しかし、コンスタンチンは3年前に死んでいるので、そんなことはあるはずがないのだ。
厄介なことに、この“不思議な事件”はドルンチナ帰還の翌日、母娘が二人とも危篤状態に陥り、看護の甲斐もなくどちらも死んでしまったことから、いきなり暗礁に乗り上げる。コンスタンチンが眠る墓石が動かされていることから、彼は“復活”を果たし、ドルンチナに“いつか連れ戻しに行く”と言った誓い<ベーサ>を守ったという噂も流れるほどだった。
警備隊長のストレスは、ローマ・カトリック教会とビザンチン正教会との緊張が続くなか、“不思議な事件”の捜査を進めるのだが…。

初めのうちは、おどろおどろしさを醸し出しながら物語が進められ、いわば幻想ミステリといったところ。ただし、物語の中盤からは単なるミステリではなくなってくる。そして後半からラストに至るまでの重厚感。特に事件を総括するストレスによる演説はすばらしい。
本書の著者イスマイル・カダレは、2005年に新設された国際ブッカー賞の記念すべき第一回受賞者。カダレ作品に接するのはこれが初めてだが、他の作品も読んでみたい。
(平岡敦訳/白水社)
                      (2006.2.2/菅井ジエラ)


【付記】イスマイル・カダレ略歴(上記扉より抜粋)
1936年アルバニア生まれ、ティラナ大学に学ぶ。30カ国で翻訳された処女小説『死の軍隊の将軍』の成功を機に、その名は世界中に広まった。神話や民間伝承を重要なモチーフとしながら、自伝風小説、歴史小説、カフカ的寓話など、さまざまなスタイルを駆使して旺盛な作家活動を続けている。海外では「ノーベル賞を10回受賞しても不思議はない作家」と評されている。

※カダレの邦訳作品には上記の他、以下のものがあった(国立国会図書館NDL-OPACにて検索)。
『砕かれた四月』(白水社)
『草原の神々の黄昏』(筑摩書房)
『夢宮殿』(東京創元社・海外文学セレクション)
『夢のかけら(「災厄を運ぶ男」所収)』(岩波書店・世界文学のフロンティア)

 

 

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