P・G・ウッドハウスを読む



「帰って行きたい帰りたい(At Geisenheimer's)」(1915)


あたしの勤め先はニューヨークにある人気のカフェ・ガイゼンハイマー。そこでダンサーをしている。店の名前こそカフェだが、半分カフェ、半分ダンスホールといった場所。店はいつも満員で賑わっているが、あたしは最近滅入り気味だ。ニューヨークの街もダンスも嫌になってきた。でも、仕事をさぼる訳にはいかない。店に雇われていることを隠して“サクラ”としてダンスに興じているのだが、心はふさぎっぱなしだ。
そんなある日、店にいるとひとりの男が急に目の前にやってきた。フェリスという名のこの男は、どうやら田舎から出てきたらしい。こういった男の相手を務めるのもあたしの仕事なのだ。彼と話をしていると、新婚旅行でニューヨークにやってきて、この店に来たらしい。「妻も一緒ですよ。一緒に此処へ来ていますよ…ここですよ。このカフェにですよ。あれ、あそこにいるのが妻です」。新婚旅行中に、夫が知らない女とダンスを楽しんでいる。妻としては面白くないに違いない。嫌な男だ。
その男の面倒は友達にまかせて、あたしは思い切って彼の妻に声をかけてみた。今にも泣き出さんばかりの顔をしている彼女に「心配事があるんでしょう?」と。彼女はしばらく黙っていたが、やがて重たい口を開いた。…。
ニューヨークに憧れる男と、彼を愛する女。そしてニューヨークに憧れ、その街でダンサーとして働いている女。3人の心の動きを描いた、ジーブスものやマリナー氏ものとは趣の異なる少し大人の話。笑いはあまりないが、「ペギーちゃん」「上の部屋の男」などが好きな方にはおすすめの作品だ。

★所収本
・上塚貞雄訳/「新青年」昭和4年夏季増刊号(帰って行きたい帰りたい)

                      (2005.3.28/菅井ジエラ)

 

 

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