志賀直哉を読む




「剃刀」


麻布六本木にある辰床の芳三郎は、剃刀の腕前の良さで知られる職人。
先代は彼の腕に惚れ込み、一人娘と結婚させた後、すぐに隠居して店を芳三郎に引き渡した。
その日は、そんな芳三郎が珍しく風邪をひいて床に臥せっていた。
ほんの一カ月前までは、芳三郎が小僧として働いていた時分からの付き合いの、源公と治太公が一緒になって店を切り盛りしていたが、わけあって今はおらず。
現在店に出ているのは、20歳になる兼次郎という男と、錦公という12、3の子供の二人だけ。何とも頼りない。
時間が経っても芳三郎の容態は全然良くならなかったが、彼はこのままだと店の評判が落ちると思い、女房のお梅の制止を振り切って、手を振るわせながら剃刀を砥ぎ始める。
そして、今日はもう店を仕舞おうという時、一人の若い男が店にやってきた。
「ザットでよござんすが、一つ大急ぎであたつておくんなさい」
お梅は兼次郎にさせようとしたが、芳三郎は自分でやると言って、疲労困憊の中、切れない剃刀であたっていくのだが…。

最終場面はとても臨場感があって素晴らしい。
ちなみに、この作品には、草稿段階で「殺人」というタイトルが付けられていたことがあるという。

登場人物
芳三郎
源公
治太公
兼次郎
錦公
お梅 ほか
                      (2006.5.8/菅井ジエラ)

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