P・G・ウッドハウスを読む



「Kちゃん(The Making of Mac's)」(1915)


あのマック亭がなぜあんなに繁盛しているのか分からない。いくら料理が美味しくても、ここまで流行るはずはない。何か他に理由があるはずだ。
そう思っていた私は、店がオープンした当初からいる給仕のヘンリーに尋ねてみた。
「…だから君一つその訳を聞かして呉れないか。君は知ってるんだろう?」
「あっしがですか? 冗談じゃねえ、十五年も一つ店に居てそれを知らなかったら大笑いでさあ。…こう見えてもこのマック亭にゃ可愛らしい話があるんですぜ。丁度今は手が空いてらあ。一つお話ししましょうか」
彼はそう言って話し始めた。
前の主人のマックが店を始めたのは15年前のこと。マックは男やもめで、アンディーという名の息子がひとりとケイティーという名の養女がいた。ケイティーはマックの友達の娘だったがその友達が亡くなってしまったので、それ以来本当の娘同様に育ててきたのだった。
マックは店主づらしない立派な男で、いつもヘンリーや料理人のジュールのことを気にかけていた。アンディーが大きくなりオックスフォードに行くことになった時も、ヘンリーやジュールが頑張ってくれたおかげで、息子をオックスフォードにやれると感謝していたほどだ。
だがアンディーが大学2年の時、マックは病気になり一生床を離れられなくなってしまう。アンディーはやむなく志半ばで大学を去り、店を継いだ。
そして、ある日のこと。ケイティーがアンディーに話したいことがあると声をかけた。
「アンディー兄さん、あたしねえ、もうお店でお手伝いすることは出来なくなるのよ」
「何だい、そりゃ?」
ケイティーは舞台に出て踊り子として働きたいという。絶対に許さないと言って怒るアンディー。ケイティーはほとんど家出のように出て行ってしまった。
それから時が過ぎ、ケイティーは人気の踊り子となり、たくさんの仲間を連れて店にやってくるようになる。そのおかげで前にも増して繁盛するマック亭。
だが、それをよく思わないアンディーは彼女に言ってしまう。
「何だか知らないが此店のことで大変骨を折ってるようだけども、然しそんな余計なことはして貰わなくたって良いんだ。深切は有難いが、このマック亭を動物園見たいにして呉れちゃ困るよ!」
「まあ!」
ケイティーはその後、バッタリ来なくなってしまった。……

アンディーを思うケイティーと、ケイティーを思うアンディー。お互いを思うふたつの心は、あるひとつの偶然がなければ永遠に通わなかっただろう。
ジーヴスシリーズやマリナー氏シリーズなどもよいが、こうした落ち着いた作品も良い。
「帰って行きたい帰りたい」「ペギーちゃん」「上の部屋の男」などを集めた翻訳作品集が出てくれないものだろうか。

★所収本
・東健而訳/改造社 世界大衆文学全集34『世界滑稽名作集』所収(Kちゃん)

                      (2006.12.31/菅井ジエラ)

 

 

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