P・G・ウッドハウスを読む



「ジーヴスとケチンボ公爵(Jeeves and the Hard Boiled Egg)」
(1917)


バーティーがある日の晩遅く家に帰ってくると、ジーヴスからビッキーが2度彼を訪ねてきたことを知らされる。ビッキーはオックスフォード出身のイギリス人。バーティーがニューヨークにやって来て間もない頃に知り合った友人だ。これはきっと何か問題が発生して困っているに違いない。そう考えるバーティーに、ジーヴスは新聞に載っていたある記事が関係しているのではないかと言う。
「新聞で拝読いたしましたが、ビッカーステス様の伯父上様がカルマンティック号にてご到着なされるとの由にございます」
「何だって?」
「チズウィック公爵閣下でございます、ご主人様」
ビッキーの伯父があのチズウィック公爵だったとは初耳だ。その公爵は“おそろしく金持ちの年寄り”だが、“イギリス一番の賢い消費者”として悪名高い人物だった。
そうこうするうちに、ビッキーがまた訪ねてきた。やはり話は公爵の件だ。
ビッキーはアメリカのどこかの田舎で暮らすことを条件に、公爵から小遣いをもらって生活をしていたのだが、公爵がビッキーを訪ねると、田舎ではなく、ここニューヨークで暮らしていることが彼にバレてしまう。そうなると、公爵は小遣いをくれなくなるので困るというのだ。
よい知恵はないかと懇願するビッキーに、ジーヴスはある案を持ち出す。それは、今バーティーが住むこのフラットをビッキーの住まいということにして、ニューヨークでうまくやっていると言えば、この町に住んでいても何も咎めはしないだろうというのだ。
ジーヴスの作戦は一見上手くいきそうに見えたが、失敗してしまう。
「…閣下はビッカーステス様の月々のお小遣いの打ち切りをご決断なさったのでございます。すなわち、ビッカーステス様がご自力で結構にお暮らしあそばされておいでであるならば、もはや財政的援助は不要との理由にございます」
このままでは、友人ビッキーが窮してしまう。どうすればよいのか…。
「何とかしなきゃならない、ジーヴス」
「はい、ご主人様」
「何か思いついたか?」
「今現在は何も思い当たりません、ご主人様」
さすがのジーヴスも万策尽き果てたか…。この後、ビッキーは一文なしになってしまうのか?

今回のジーヴスの手腕は限りなく恐喝的で無理がある。公爵は英国で一、二を争うほどケチンボというレッテルを貼られているとはいえ、かわいい甥っ子には、条件を出しながらも毎月小遣いをやるという可愛がりよう。よくよく考えると、伯父の小遣いで生活をしようというビッキーの考えが悪いように思う。それをこんな恐喝じみた方法を使ってやりこめるというのは、ちょっとやりすぎだ。

★所収本
・森村たまき訳/国書刊行会『それゆけ、ジーヴス』(ジーヴスとケチンボ公爵)
・村上啓夫訳/「宝石」昭和35年9月号(ジーヴズとしまりや公爵)

                      (2005.11.24/菅井ジエラ)

 

 

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