P・G・ウッドハウスを読む



「怪我をする会(Ukridge's Accident Syndicate)」
(1923)


朝、通りを歩いていると、急にウークリッジ(ユークリッジ)が私の手をとって、ぐいぐいと教会の方に連れて行く。どうしたのか聞いてみると、懐かしい顔を発見したようだ。
「誰だい?」
「テディ・ウィクスだよ」
「テディ・ウィクスだって?」
“私は思わず声が高くなった”。というのも彼のことで昔ちょっとしたことがあったからだ。

それは5年前のこと。
ウークリッジをはじめ、私たち仲間はいつものイタリアン・レストランで飲んでいた。テディ・ウィクスもいる。その時、同じく仲間のフレディ・ラントがしばらくぶりに店にふらりと入ってきた。
「どうしたい」
「寝てたんだよ」
二週間も寝て暮らしていたというフレディをウークリッジが戒めようとすると、フレディはちゃんと訳があるという。
聞くと、フレディは自転車から転落して怪我をしたので、ずっと休養をとっていたという。みんなは彼に同情するが、当の本人はそれ程悪くもないという口調だ。実は彼は自転車週報を購読していて、怪我をした時に見舞金をもらったという。
当時は1年分の購読料を払うと、それで傷害保険の権利が得られるという商法が流行りだした頃で、この商法は大いに人気を博していた。
その話に飛びついたのがウークリッジ。
「そんな新聞はいくつぐらいあるんだい」
「10はあるだろうね」
「じゃ、その新聞全部購読して足を折れぁ…」
こうしたことになると、彼は計算が速い。そして彼はある計画を立てる。題して簡単に金を儲ける方法。
「…いいかい、おれの計画てのはこうなんだ。新聞共に購読料を払って籤をひく。そしてスペードの一か何かに当たった奴が怪我の方を万事引き受けて見舞金をもらう。それをみんなで山分けする」
こうして“怪我をする会”が結成された。
そして緊張のくじ引きタイム。運命の男となったのが他ならぬテディ・ウィクスだったのだ。
だが、車に轢かれて怪我をするというのはそう簡単にできないようで、テディ・ウィクスは5日経っても、6日経っても一向に怪我をしない。このままだと新聞社に支払った購読料が無駄になる。ウークリッジは気が気でいられなくなり…。

何とかしてお金の回収をしようとするウークリッジら。彼らは計画通りにテディ・ウィクスに怪我をさせて、新聞社から見舞金をふんだくることができるのだろうか?
ユークリッジものには、道徳的に不適なものが少なからずあるが、その無鉄砲ぶりには、他のシリーズでは味わえない爽快感がある。

★所収本
・梶原信一郎訳/「新青年」昭和2年新春増大号、同訳/博文館『どもり綺譚』、同訳/立風書房『新青年傑作選4 翻訳編』(怪我をする会)
・梶原信一郎訳/「新青年」昭和12年8月増刊号(怪我をしよう会)
・岡成志訳/東成社『愛犬学校』(傷害組合)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『ユークリッジの商売道』(ユークリッジの傷害同盟)

                      (2006.6.21/菅井ジエラ)

 

 

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