P・G・ウッドハウスを読む



「禽獣愛護(Open House)」(1932)


その日、いつもの「釣天狗倶楽部」の酒場室でマリナー氏が話し始めたのは、在スイス英国大使館に勤務する甥のユースタスのことだった。
今では、成績優秀で親戚みんなの願いに叶った働きぶりだが、そんな彼もスイスに旅立つまで一騒動あったという。
それはマーセラ・テイリットという娘と恋に落ちたのが原因だそうだ。
ある日のこと。熱烈に思いを寄せる愛しのマーセラがパリに発つため、彼女が飼っているカナリアのウィリアムと狆のレジナルドを預かってほしいと言ってきた。レジナルドには1日20分ほどの散歩を、ウィリアムには1日1、2回カゴから出して室内を飛ばしてやってほしいということだったが、ユースタスは、これは自分を大いに頼ってのことだと思い、張り切って快諾した。
「判ったわね。頼むわよ。両方ともあたし、それは大事にしてるんだから、身命を賭して守ってね」
「どんなことがあっても。御心配なく」
一方で、彼には実は1週間ばかり前まで付き合っていたビアトリスという名の女性がいたのだが、ユースタスはマーセラのいないこの期間を利用すれば、ビアトリスとの恋愛を清算できると踏んでいた。
そのため、マーセラがパリに発った日、彼はビアトリスを誘った。
ユースタスの計画はこうだ。次の月曜がちょうど彼女の誕生日だったので、うちに彼女を誘う。だが、彼女が来ても自分はジョージアナ叔母さんのところに行っていて、邸には侍僕のブレンキンソップがいるのみ。おまけにプレゼントを何も用意していない。最終的に彼女は憤慨して彼をふるという按配だ。ユースタスは、これなら誰の気も悪くせずに事をうまく運べると思っていた。
明くる日のこと。ブレンキンソップがユースタスに客の来訪を知らせた。
「お客さまでございます。オーランド・ワザスプーン様と仰言る方でございます」
ユースタスは彼を招き入れたが、名前に覚えもなければ見覚えもない。聞くと、彼は庭の向こう側に住んでいて“禽獣愛護連盟”の副会長を務めているとのこと。何があったか恐ろしい形相でまくし立てはじめた。
「…憎むべき悪魔がか弱き小鳥を虐待しておるのを目撃して、大いに驚いたのである。わしは、やや暫し、驚愕のため物も言えんかった。わしの血潮は凍るかと思われた─わしはこの悪魔奴には、憤怒に堪えん」
「それやそうでしょうとも、僕だって癪に障りますからな、一体どこのどいつです」
「即ち、なんじである─なんじこそ、悪魔である…この暑い日中に、あのカナリアを窓際に出すとは何事であるか。汝自信、帽子も被らずこの日中、太陽の下に突き出されてみろ!」
すごい剣幕で話す彼にたじたじのユースタス。ワザスプーン氏はユースタスの名前、年齢などを聴取し、「悪魔は取り締まらなければ」と言ってブラックリストに書き込んだ。
「それでは、御免。いや、送らんで宜しい」……。

マーセラから預かったウィリアムとレジナルド。そして“かつての恋人”ビアトリスに、“隣人”ワザスプーン氏。ユースタスの周りに役者が揃い、どうやら雲行きが怪しくなりそうな…。さて、ユースタスの身はどうなるのか?
それだとユースタスがあまりにも可哀想だというシーンが満載。でも、結果的に今が幸せならそれで良しとするべきか。

★所収本
・黒豹介訳/解放社『恋の禁煙─マリナー氏は語る─』、同訳/東成社『恋の禁煙』(禽獣愛護)

                      (2006.12.25/菅井ジエラ)

 

 

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