アメリカ・カナダ文学を読む



フランク・ノリス「小麦相場」



小麦取引のマネーゲームに翻弄される、ある夫婦の話。
ルイストン夫妻はカンザス州南西部の農場で小麦を作って生計を立てている。
彼らは他の何百万という農家同様、ある危機に見舞われていた。というのは、小麦が1ブッシェル66セントまで落ちてしまったのだ。
このままだと破産になってしまう。
妻のエマは、ジョウ兄さんが言ってきてくれたことを夫のサムに話す。
「…いざとなればここを去って─去って(兄さんのいる)シカゴへいったっていいんだから」
その言葉に憤慨するサム。
「そして投げ出しちまうってのか!…農場を去っちまうってのか!諦めちまうってのか!これだけ苦労して築きあげてきたってのに!」
サムには農家としてのプライドがあった。だが、彼は知っていた。これが最後のがんばりだということを。
…サムはもしかすると、今日は好転しているかもしれないというほのかな期待を抱きながら、町にやってきた。そして煉瓦と大理石の建物の中に入り、金文字で“穀物商ブリッジズ商会”と記されたドアを開けた。
「どうかね」
「そうだね、ルイストン…62セント以上じゃもらえないね」
「62セント?」
62セント。この数字は破滅を意味していた。彼は自分の置かれた立場を理解し、シカゴへ行くことにした。…。
相場師たちによって、人生を狂わされる人たち。資本主義社会の悪しき側面を見て、ある種の残酷さを感じた。
(小野協一訳/英宝社)
                      (2006.9.21/菅井ジエラ)


 

 

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