P・G・ウッドハウスを読む



「婚約(No Wedding Bells for Him)」(1923)


僕とユークリッジの二人で、料理店に昼食を取りに行った帰り、町の真ん中で立ち往生をしている一台の車を見つけた。それは素晴らしく立派な大型車だったが、故障しているらしく、運転手の男がボンネットを開けて何かいじっている。ユークリッジはどうやら運転手と知り合いのようで、「どうしたい、フレデリック?」と声をかけると、運転手は思った以上に早く修理が終わったので、上機嫌に「東クロイドンまで乗って行きませんか?」と申し出てくれた。
そして、僕たちは車に乗せてもらうことに。それがこの“事件”のそもそもの始まりだった。
車を走らせていると、女の子が突然車の前に飛び出してきた。運転手が間一髪のところで車を停めたので彼女は怪我ひとつせずに済んだが、その時のユークリッジはもう主人気取り。彼女に「お宅まで、この車で送って差し上げましょう」と言うと、まるで自分の車に乗っているかのように、運転手に向かって「フレデリック!ちょっとそこまでやってくれ!」と命令する始末。おかげで彼女の家に着いた時、立派な車が家の玄関に横付けされるのを見ていた家族は、ユークリッジが主人だと思いこんでしまったようだった。
その後、しばらく経ってから僕はすごい噂を耳にする。ユークリッジが例の女性と婚約したというのだ。興味を持った僕は、用があって外に出かけたついでに彼の家に寄ってみた。すると噂は本当だという。しかし、彼の方ではまったく結婚する意思はなし。話が変な方向に進んでいってしまって、婚約ということになってしまったというのだ。彼は僕に無事に婚約を解消できるよう、一緒に一芝居うってくれないかと泣きついてきた。
他ならぬユークリッジの頼み。僕は彼のためにひと肌脱いでやることにしたのだが…。
ユークリッジの思ったように、うまく婚約解消はできるのか。お調子者でトラブルメーカーだが、なぜか憎めないユークリッジが、またまた起こす滑稽譚。

★所収本
・坂本義雄訳/「新青年」昭和3年新年号(婚約)
・岡成志訳/東成社『愛犬学校』(婚約解消綺譚)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『ユークリッジの商売道』(婚礼の鐘は鳴らず)

                      (2005.3.3/菅井ジエラ)

 

 

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