P・G・ウッドハウスを読む



「刑の代替はこれを認めない(Without the Option)」
(1925)


所はボッシャー街警察裁判所。被告人2名が裁きを受けた。被告人の名はバーティー・ウースターとレオン・トロツキー(またの名をオリヴァー・ランドルフ・シッパリー)。
事の起こりは、オックスフォード大学とケンブリッジ大学の間で行われる、年に一度の水上競技大会でのこと。二人はぐでんぐでんに酔った挙げ句、警官がかぶっているヘルメットを取ってしまうという暴挙に出てしまったため、その報いを受けたのだ。判決はバーティーが5ポンドの罰金刑。実行犯であるシッパリー(シッピー)は、警官へのフーリガン行為は情状酌量の余地がないとして、30日の拘禁刑だった。
「…なお、罰金刑への代替はこれを認めない」
そもそも、警官のヘルメットを取るというこんな馬鹿げた計画を持ち出したのはバーティーだった。叔母の友人で、“とんでもなくいやったらしい”プリングル家に3週間も滞在しなければならなくなったと嘆いているシッピーに、バーティーが、道の向こうにいる警官のヘルメットを取ってくると気持ちが晴れやかになるぞと薦めたのだ。そのおかげでこうした事態になってしまった。
だが、これで話が終わったわけではない。拘禁刑を言い渡されたことにより、シッピーはプリングル家に行けなくなってしまったのだ。もちろん、叔母にその理由を説明する訳にもいかない。思案に困っていた二人はジーヴスに相談することに。そしてジーヴスが出した結論は…。
「あなた様がシッパリー様の代わりにケンブリッジにおでかけあそばされるということでございます、ご主人様。…残念ながらシッパリー様をディレンマからお救い申し上げる手立ては、これより他にご提案いたしかねます、ご主人様」
プリングル家と会うのはシッピーが10歳の時以来だから、バーティーが行っても分かりっこないと話すシッピーとジーヴス。こうして、バーティーは渋々単身でプリングル家に乗り込んだのだが…。
果たして、バーティーはプリングル家で上手に振る舞えるのか。もちろん、うまくいくはずがない。おまけにプリングル家は、例のあの親子と親戚だということが分かり、また、さらに悪いことに当の本人が邸に現れたことから…。
しかし、最後はめでたし、めでたし。こんな所に落ち着くとは! それにしても、マリナー氏同様、ジーヴスも親戚が多いようで…。

★所収本
・森村たまき訳/国書刊行会『それゆけ、ジーヴス』(刑の代替はこれを認めない)
・梶原信一郎訳/「新青年」昭和2年新春増刊号、同訳/博文館<新青年叢書>『どもり綺譚』(巡査を殴る)
・村上啓夫訳/「宝石」昭和35年11月号(シッピーの禁固事件)

                      (2006.7.2/菅井ジエラ)

 

 

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