「ミステリを読む」ページトップへ

ミステリを読む




ヘレン・マクロイ
『殺す者と殺される者』


マサチューセッツ州にある大学の心理学部で教鞭をとるハリー・ディーンは、ある日冷たく凍った道に足を滑らせて意識を失うという不幸に見舞われてしまう。その事故を機に、ハリーは職を辞し、母の故郷であり、彼が幼少の日々を過ごした場所でもあるクリアウォーターという小さな町で余生を過ごすことを決意。愛するシリアがその町に住んでいることが彼の決意を固いものにしていた。
伯父の死で思いもしなかったほどの遺産を手にしたハリーだったが、クリアウォーターに向かう途中、シリアが結婚していることを知る。それも相手がサイモン・スロールだと聞いてショックを受けるのだった。
ハリーはひどく心を傷めるが、それでも思い出の町へ赴きシリアの父から邸宅を譲り受けると、そこで新しい生活を始める。
しかし、クリアウォーターでの生活が落ち着く間もなく奇妙なことが起こる。彼の運転免許証がなくなってしまったのだ。自分の部屋の机の引き出しにしまっていたのだが、どこを探してもない。室内に泥棒が入ったという形跡がないことから、彼は自分がどこかになくしてしまったのかもしれないと思っていた。だが、その運転免許証を使って、彼の預金が勝手に引き落とされるという事件が起き…。
マクロイの作品の中で『幽霊の2/3』と並んで邦訳が手に入りにくいものの1つ。私には学術的にこうしたこと(トリック)が立証できるのか何も与り知ることがないが、そうしたことをすべて差し引いても、十分に楽しむことができた。ストーリーテリングの仕方、伏線の張り方などどれも秀逸で、初めのうちの読者を煙に巻くような展開から物語の全容を明らかにしていくその卓越した筆力は、女性初のアメリカ探偵作家クラブ会長を務めただけのことはある。
『幽霊の2/3』といい、『殺す者と殺される者』といい、マクロイは作品タイトルの付け方がうまいとつくづく思った。
(中田耕治訳/創元推理文庫)
                           (2005.8/6/菅井ジエラ)

トップヘ

All Rights Reserved Copyright (C) 2004-2007,MUSEION.

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

inserted by FC2 system