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ミステリを読む




中村真一郎
「黒い終点」


本来の真面目なイメージからはまったく想像できないほど、人生を真逆に歩んでしまった男、戸部。
彼をそうさせてしまったのは、戦争だった。
戦争が終わり、戦地から生まれ故郷の東京に戻った時、彼の一家は空襲で全滅していた。
その時、彼はある心理状態に陥った。“目のまえの現実が、夢の中のよう”に思えた。
そうなると、一種の興奮状態になり、何でも自由にできるような錯覚を起こすのだった。
そこで、戸部は野田という戦友を訪ねる。野田は要領がよくて嘘つきの「インチキ男」で、以前なら絶対に付き合わない虫の好かないヤツだった。しかし、彼は野田とならこの不遇の時代を乗り越えられると思ったのだ。
知らず識らずのうちに、泥沼へとはまりこんでいく戸部。この物語では、彼の死に先立つ五日間を追って、彼の異常な生活の記録を綴っている。
銀座通りの洋品店「ローズ・タットゥ」を隠れ蓑にして、売春の斡旋、恐喝、ゆすりへと手を染めていく戸部。それに並行するように、大きく募らせていく子連れ女性への思い。彼は自分は純潔な精神を保っていると信じながら、自らを破滅の道に追いやっていく。
新書サイズで104ページという分量がちょっと物足りなかったが、ラスト5日目の緊迫感を持続させた展開は素晴らしい。
(彌生書房・推理小説傑作選(3)『黒い終点』所収)

                           (2006.8.23/菅井ジエラ)

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