志賀直哉を読む




「菜の花と小娘」


ある一人の小娘が山で枯れ枝を拾っていると、ふと誰かに呼ばれたような気がした。
彼女は小枝をカゴに詰めていた手を止めて、辺りを見回してみたが誰もいない。
「私を呼ぶのは誰?」と聞いても誰も答えなかった。
しかし、小娘は気付いた。その声の主が小さい菜の花だったことを。
雑草の中でただ一本淋しく咲いている菜の花。“私をお仲間の多い麓の村へ連れて行って下さい”と懇願する菜の花に、小娘は願いを叶えてやることにした。

この作品が発表されたのは大正9年1月のことだが、初めて書かれたのは明治37年、彼が学習院高等科に通っていた頃。志賀直哉自身、『続創作余談』で、この作品について“…別の意味で処女作と云ってもいいかも知れない”と書いている。公に発表されたものとしては、明治43年、「白樺」の創刊号に寄せた「網走まで」が処女作となるが、それよりも前に、しかも高等科時代に書かれたものと聞くと、この作品がもつメルヘンチックさも納得できる。
                      (2005.5.3/菅井ジエラ)

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