P・G・ウッドハウスを読む



「ポッタ氏の静養(Mr. Potter Takes a Rest Cure)」(1926)


ジョン・ハミルトン・ポッタ氏はニューヨークにある有名な出版会社の社長。彼は今、ウィッカム夫人の邸宅でゆっくりと静養している。ふたりはポッタ氏がイギリスに着いて間もなく行われた文士倶楽部の晩餐会で知り合った。彼女は小説書きだったので、邸宅への招待の陰に、自身の小説を売り込んでアメリカで出版させたいという彼女の思惑が見え隠れしていたが、それにも増して、この邸宅の古風な趣味がポッタ氏の関心を引いたのだ。神経衰弱が治ったばかりで医者に当分静養するように言われていた彼にとっては、事務所での過去18年間にも渡る電話地獄から抜けだした、この邸宅での時間はまるで天国のよう。さらにここにはウィッカム夫人の令嬢でロバータという天の使いのような女性もいた。
ただ唯一、ポッタ氏の夢のような時間を邪魔する存在だったのが、政治家特有の冗舌をふるうクリフォード・ガンドルという名の男。彼はいつか大臣になるだろうと言われている有望な人物で、ウィッカム夫人は娘と結婚させたがっている。ガンドルもロバータとの結婚に乗り気で、このまま行けば結婚も現実味を帯びてくるはずなのだが、一方のロバータがガンドルと結婚する気なし。むしろ彼を嫌っていた。
ポッタ氏がニューヨークの事務所から送られてきた『自殺の倫理』というタイトルの原稿を庭で読んでいる時にも、ロバータに声をかけられ、話したことがある。
「クリフォード・ガンドルさんとつきあうくらいならわたし自殺でもした方がよっぽどいいわ」
「ガンドルさんをお嫌いかな?」
「大嫌い」
「わしも嫌いさ」
「誰だってよ。例外は、お母さまだけですわ」
そうは言っても、ロバータは無碍にガンドルとの縁談を断ることはできない。どうすれば、ガンドルと結婚しなくてすむのだろうか。彼女は一計を案じた。
……。
ポッタ氏はロバータと会話をかわした時、まさか、自分が彼女とガンドルの結婚騒動に巻き込まれるとは思っていなかっただろう。由緒あるイギリスの邸宅を舞台に起こる、文字通り体を張った大騒動。ポッタ氏の静かな休日は一体どうなるのだろうか。
ロバータに手玉に取られる男性陣。ポッタ氏が再び神経衰弱になっていないことを祈る。

★所収本
・梶原信一郎訳/「新青年」大正15年12月号、同訳/博文館『どもり綺譚』(ポッタ氏の静養)
・森村たまき訳/国書刊行会『ジーヴスの帰還』(ポッター氏の安静療法)
                      (2006.7.9/菅井ジエラ)

 

 

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