志賀直哉を読む




「正義派」


ある日の夕方、21〜22歳の母親に連れられた5歳くらいの女の子が電車に轢かれ亡くなった。
事故現場にはすぐに人だかりができ、ほどなく交番から巡査がやってきた。
そこに鉄道会社の監督も現れ、問題の運転手に事情を聴いた。
「電気ブレーキを掛けたには掛けたんだな?」
「掛けました」
つまり、女の子が急に飛び込んできたので急ブレーキをかけたが、間に合わず轢いてしまった。“過失より災難”だというのだ。
その言葉に、近くで事故の一部始終を目撃していた線路工夫たちが立ち上がった。
“初めは電車と女の子の間には距離があったので、その時にすぐにブレーキをかけていれば、女の子は死ぬことはなかった”と。

鉄道会社のおかげで職にありつけているという微妙な立場も省みず、正義を貫こうとする線路工夫たち。
つい先日、100人以上の犠牲者を出した鉄道事故があったが、もし著者が今も存命で、このニュースを見たとしたら、どんなコメントを述べるだろうか?
                      (2005.4.29/菅井ジエラ)

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