ユーモア小説を読む




中野実『新婚リーグ戦』


会社員の芳沢靖夫は29歳、雑誌記者をしている北川真弓は24歳。ふたりは靖夫が大学に通っていた頃からのつきあいで、つい先日結婚したばかり。幸せな結婚生活を夢見ていた。
しかし、真弓が働く会社の社長水海恭造のポリシーがそれを邪魔する。というのは、雑誌社に記者として採用される際、独身者に限るという条件が設けられていて、結婚したものは会社を辞めてもらうと水海が宣言していたからだ。
就職した当時はまだ独身だったため、嘘はついていなかったが、そうかといって、結婚した今、すぐに辞めてしまっても靖夫の給料だけでは到底食べていけない。そこでふたりは、当分の間結婚していることを隠して、週末だけの結婚生活を楽しもうと決めるのだった。
そんな折、靖夫に新しく設立された雑誌社の編集長、兼企画部長、兼宣伝部長、兼給仕として雇いたいという話が舞い込む。今の会社より待遇がよく実入りもいい。おまけにやりがいもある。靖夫はその話を受けることにした。
同じ業界で働くことになったふたりを待っていたのが、雑誌ネタの奪い合い。公私混同せずにフェアにやっていこうと決めてはいたが、競争が熾烈になるにしたがい、そうは言っていられなくなる。おまけに、靖夫が勤める雑誌社の女社長谷妙子が、上司と部下の関係を利用して靖夫にモーションをかけてきて…。
ふたりの結婚生活は一体どうなるのか? 果たしてふたりに幸福な時はやってくるのだろうか?

戦後を代表するユーモア作家のひとりで、劇作家としても知られる中野実が書いた全編おやじギャグ満載の痛快小説。あまりの偶然の多さに、そりゃないだろうと言いたくなるが、それもご愛敬。映画化もされているようだが、近くのレンタルビデオ店にはなさそうだ。
(春陽文庫)
                      (2006.6.7/菅井ジエラ)

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