P・G・ウッドハウスを読む



「守護神(The Good Angel)」(1910)


マーチン・ロシターは子供の頃からエルザ・キースのことが好きだった。だからキース夫妻がマーチンを田舎屋敷に招待してくれる時は、彼はとても嬉しかった。
しかし、最近になって彼に恋敵が現れた。オーブリ・バーストウという名の青年だ。彼は詩人だった。“その害毒”は“教養というものに強く心を引かれる”ようになったキース夫人から始まり、今ではエルザにまで触手を伸ばし始めたのだ。そのため、マーチンがキース家に滞在中に、オーブリとエルザがおよそ5時間も“魂のふれ合うような語り合い”をしていたなどと聞くのは、彼にとって拷問以外の何ものでもなかった。
そんな折、マーチンのもとに現れたのは、キース家の召使頭を務めるケッグスだった。
ケッグスは「あるいは無礼とは存じまするが」と切り出す。そして、マーチンの恋の成就のために、あれこれ指南するのだった。
「若いご婦人というものはですな…」
マーチンはケッグスの演説を聴いて、感謝の念を抱いた。「それは、ど、どうもありがとう」
しかし、ケッグスの話にはどうやら裏があるらしい。
「この問題に私が興味を示しておりますのは、まったく他人さまのためだけというわけではございませぬ」
そしてケッグスはなおも続ける。彼の事情というのはこうだった。召使いたちの間でエルザが誰と結婚するかを賭けていて、ケッグスはマーチンと結婚するのに賭けている。彼は最近競馬で少しすってしまっているので、負けの分を取り返したいというのだ。
ケッグスの話を聞いた後、怒りを通り越して言葉を失ってしまったマーチン。しかし、マーチンはいつの間にかケッグスの術中にはまってしまったようで…。
最終的にエルザの心をつかむのはオーブリ? それともマーチン?
エルザの気持ちをオーブリから離れさせる手腕、そしてエルザとマーチンを近寄らせる巧みな術。ケッグスの頭脳は後に登場するジーヴスと相通じるものがある(本作品が書かれた時には、まだジーヴスものは世に出ていない)。

★所収本
・田中春美訳/富士書店『ウッドハウス短編集』(守護神)
                      (2005.9.1/菅井ジエラ)

 

 

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