P・G・ウッドハウスを読む



「僧正と強壮剤(The Bishop's Move)」(1927)


ぴかぴかのシルクハットにフロックコートといういでたちでカフェに現れたマリナー氏。どうやら教会へ行った帰りのようだ。私はその服装から彼の甥のオーガスチンのことを思い出した。
「先日あなたから承った甥御さんはそれからどうしていらっしゃいますね?」
私は以前マリナー氏が甥のオーガスチンの話をするのを聞いていたのだ。彼は僧正の秘書になったという。
「何でもバック・ユー・アッポとか何とかを飲んだ人ですよ」
「じゃそのつづきを話しましょうかな。それから半年ばかり経ってからのことですがね」とマリナー氏は続けた。

オーガスチンが秘書を務める僧正のもとに、小学校時代の友達から手紙が届いた。その友達は今ハーチェスター小学校の校長をしているが、同じく小学校時代の友達であるヘムステッドのヘルメル卿の銅像除幕式を執り行うのでぜひ来てほしいという招待状だった。 僧正はオーガスチンを伴って20年ぶりにハーチェスターに向かった。そして滞りなく除幕式が行われたが、実に長く、退屈で、しかもヘルメル卿のために褒め言葉を並べなくてはならなかったため、式後は僧正も校長も精神的にひどく参っていた。
二人は校長の書斎に行くと、校長が「ま、一杯いこう」と言ってワインを注いだ。その時、僧正は自家製のバック・ユー・アッポという強壮剤のことを思い出す。彼らはオーガスチンの部屋に小使を行かせて、黒ずんだ液体が半分ほど入った瓶を持ってこさせた。2人して少し飲んでみようということになったが、一度にどれだけ飲んでいいのか皆目見当もつかない。二人は分からないまま大きなコップになみなみと注いで飲んだ。
しばらくすると、二人とも見事な酔っぱらいになってしまっていた。上機嫌の二人が考えたのは、ちょっとしたいたずらをしようということ。それはヘルメル卿の銅像をペンキで塗りつぶしてしまおうというものだった。日が沈むのを待ち、その日の夜、彼らのいたずらは見事に成功した。
しかし翌朝…。
いたずら好きな二人の職業が僧正と小学校校長というのは、なかなか風刺が効いている。「強壮剤がおいしい」と二人は褒めちぎっているが、読んでいても不思議とこの強壮剤を飲みたいとは思わなかった。


★所収本
・乾信一郎訳/「新青年」昭和9年夏期増刊号(僧正と強壮剤)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『マリナー氏の冒険譚』(主教の一手)

                      (2005.4.16/菅井ジエラ)

 

 

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