創作中の作家の頭の中を見る


作家はどんなことを考えながら作品を書いているのか。私の場合、それを知った時に突然その作家(作品)に親近感を抱くことがある。
「小説の神様」といわれる志賀直哉は私のお気に入りの作家のひとりで、彼がどのように創作をおこなっているのか、とても興味があった。そんな私の気持ちに見事に応えてくれたのが、一つひとつの作品について、彼自身が執筆の際のこぼれ話を綴った『創作余談』『続創作余談』『続々創作余談』だ。

例えば、『清兵衛と瓢箪』については、「これに似た話を尾の道から四国へ渡る汽船の中で人がしてゐるのを聴き、書く気になった」と書いてあったり(『創作余談』)、『暗夜行路』の直子は、「なるべく自分の家内にならぬやう、最初は体格など全(まる)で別の人物に書いてみたが、いつか段々家内に近い人物になって来た。……(省略)……私の家内は……(省略)……いやがり、未だに「暗夜行路」を読んでゐない」と書いてあったり(『続創作余談』)するのを読んでいると、志賀直哉がどんなところで話のネタを探り、どのように構想を練っていくのか、彼の頭の中を垣間見られたような気がしておもしろい。再読の際に、直子って奥さんのことなんだ、で謙作は志賀直哉自身だから…などと考えながら読んでいくと、また違った風に作品を楽しめる(変な楽しみ方かな?)。


ちなみに志賀直哉は奥さんをモデルにいくつかの作品を書いているようで、その中の『邦子』では、細君が自殺するという内容になっている。奥さんはそれを読んで以来、自分に似た人物が出てくる作品は読まなくなったらしい(『続創作余談』)。そりゃ、誰だって勝手に殺されたら読むの嫌になりますよ、志賀先生。


書店でいろいろな本をぱらぱら見ていると、作品の解説代わりに創作ノートが付されているものや、アーヴィングの『ピギー・スニードを救う話』(新潮社/同名の作品集に所収)のように、作品の中で「作家の思考回路」を知ることのできるものなど、作家の頭の中を覗けるものも、時々目にする。作家の代表作とは決して言えないが、こんな本に出会うと、それ以降、その作家に対する思いも変わってくるものだ。

                      (2003.7.23/菅井ジエラ)

『創作余談』志賀直哉全集第6巻(岩波書店)
『続創作余談』志賀直哉全集第6巻(岩波書店)
『続々創作余談』志賀直哉全集第9巻(岩波書店)

 

 

「文芸誌ムセイオン」トップヘ

All Rights Reserved Copyright (C) 2003-2018,MUSEION.

                       

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

inserted by FC2 system