P・G・ウッドハウスを読む



「少しは他人の喜ぶことも(The Passing of Ambrose)」(1928)


アルヂー、アンブローズの幼なじみ二人が口げんかをしている。その原因はアンブローズにあるようだ。というのも二人で船に乗ってモンテカルロに遊びに行く約束をしていたのを、直前になってアンブローズが延期しようと言い出したのだ。
「君は女の尻を追っかけてるんだな…誰だかチャンと知ってらあ。ウィカム嬢だろう」と話すアルヂー。
以前にアルヂーが紹介したウィカム嬢にアンブローズが惚れてしまい、ロンドン滞在を主張しているのである。
「…でも君が紹介して呉れたじゃないか」
「紹介はしたさ。だがあの娘には気をつけろと警告しといた筈だ」
アルヂーの話によれば、ウィカム嬢という女性はくせ者らしい。これまでに彼女に好意を抱いた男がたくさん痛い目に遭っているという。しかし、アンブローズはアルヂーの忠告に耳を貸さず、話は物別れに終わった。
ところで、ウィカム嬢はというと、マーシャ叔母さんの家で従弟のウィルフレッドとその友達のエスモンドの世話を頼まれていた。彼女は子供二人を活動に連れていくことなどしたくもなかったが、前々から母親に約束してしまっていたことなので、泣く泣くそうせざるを得なかった。
そこに現れたのがアンブローズだ。
「ちょっと御邪魔に上りました。今日の午後はどこかへお出かけですか」
「私、従弟のウィルフレッドとその友達のエスモンドと云う子を活動に連れて行くんですの、あなたも一緒にいらっしゃらない?」
「ええ…でも僕、行ってもいいんですか!」
「ええどうぞ」
というわけで、アンブローズは実は子供が何よりも嫌いだったのだが、ウィカム嬢がいるので喜んでお供するのだった。
しかし、アンブローズが切符を買い求めている間に、ウィカム嬢がどこかに消えて、彼が二人の面倒を看ることになってしまい…。
どのシーンも当時のロンドンの情景が映像のようにイメージできるので、その辺りも読んでいておもしろい。
でも、ウィカム嬢のような女性はいつの時代にも、どこにもいるもので…。“少しは他人の喜ぶこともしなければ…”。いやぁ、残念ながら誰もできていませんね。

★所収本
・上塚貞雄訳/「新青年」昭和3年12月号、延原謙訳/改造社『世界ユーモア全集2 英米篇』(少しは他人の喜ぶことも)
・岩永正勝・小山太一編訳/文藝春秋『マリナー氏の冒険譚』(アンブローズの回り道)

                      (2005.8.29/菅井ジエラ)

 

 

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