最終更新日 2024年3月22日

昭和初期の文学を読む

●昭和初期の文学について
戦争という暗く、重いものが人々の暮らしに根付いている時代。
ここでは昭和元年から第二次世界大戦が起こる昭和16年以前(=昭和15年まで)を昭和初期と位置づけ、この時代に発表された作品を紹介していきます。


【昭和初期の文学作品】
※緑色で記した作品は順次レビューアップ予定。
黒色で記したものはその年に発表されたその他の作品、著名な作品。
※作品名や引用部分の旧字・旧仮名づかいは、一部改めて記しています。
※リストにあるeBOOKリンクから作品を読むことができます。

昭和元年(1926年)
「嵐」(島崎藤村) 
eBOOK
「氷の雨」(長谷川時雨)

昭和2年(1927年)
「歯車」(芥川龍之介) eBOOK
「綱の上の少女」(片岡鐵兵) eBOOK
「猿から貰った柿の種」(北村小松) eBOOK
「神秘昆虫館」(国枝史郎) eBOOK  eBOOK2
「猫のゐる風景」(蔵原伸二郎) eBOOK
「橇」(黒島伝治) eBOOK
「雪のシベリア」(黒島伝治) eBOOK
「支倉事件」(甲賀三郎) eBOOK
「疑問の黒枠」(小酒井不木) eBOOK
「遥かなる眺望」(小島勗) eBOOK
「緑の騎士」(小島政二郎)
「橋梁を行く二人」(小堀甚二)
「たんぽぽ」(坂本遼)
「百姓の話」(坂本遼)
「苦心の学友」(佐々木邦) eBOOK
「──雲に鳥」(佐佐木茂索) eBOOK
「あゝ玉杯に花うけて」(佐藤紅緑) eBOOK
「安城家の兄弟」(里見ク)
「邦子」(志賀直哉)
「山形」(志賀直哉)
「朝」(寿岳文章)
「東方言語史叢考」(新村出)
「かなしき歌人の群」(杉浦翠子)
「人魂黄表紙」(高田保)
「結婚まで」(瀧井孝作)
「中世紀」(竹中久七) eBOOK
「無力な恋人」(田中純)
「テキサス無宿」(谷譲次=牧逸馬)
「百夜」(田山花袋) eBOOK
「児病む」(近松秋江)
「河童の話」(坪田譲治)
「月光室」(殿岡辰雄)
「砂絵呪縛」(土師清二)
「北国薬研谷」(長谷川時雨)
「黒川家の強盗」(林房雄)
「新版大岡政談」(林不忘=牧逸馬)
「施療室にて」(平林たい子)
「何が彼女をそうさせたか」(藤森成吉)
「ルウベンスの偽画」(堀辰雄) eBOOK
「小魚の心」(真杉静枝)
「寒鴨」(真船豊)
「残された二人(改題/村はづれ」(真船豊)
「江戸売笑記」(宮川曼魚)
「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治) eBOOK
「一本の花」(宮本百合子) eBOOK
「帆」(宮本百合子) eBOOK
「スカートをはいたネロ」(村山知義)
「西郷と大久保」(山本有三)
「愛の挨拶」(横光利一)
「獄窓から」(和田久太郎) eBOOK

昭和3年(1928年)
「電気風呂の怪死事件」(海野十三) eBOOK
「陰獣」(江戸川乱歩) eBOOK
「晩春騒夜」(円地文子)
「冬の蠅」(梶井基次郎) eBOOK
「桜の樹の下には」(梶井基次郎) eBOOK
「崖の下」(嘉村磯多) eBOOK
「業苦」(嘉村磯多) eBOOK
「ゴー・ストップ」(貴司山治)
「月光」(北見志保子) eBOOK
「平手酒造」(陸直次郎)
「第百階級」(草野心平)
「娘煙術師」(国枝史郎) eBOOK
「春泥」(久保田万太郎) eBOOK
「渦巻ける烏の群」(黒島伝治) eBOOK
「屋上の土」(古泉千樫) eBOOK
「情熱の春」(小寺菊子)
「一九二八年三月十五日」(小林多喜二) eBOOK
「愚弟賢兄」(佐々木邦)
「新家庭双六」(佐々木邦)
「右門捕物帖」(佐々木味津三) eBOOK(南蛮幽霊)
「南京の皿」(佐佐木茂索) eBOOK
「キャラメル工場から」(佐多稲子)
「分配」(島崎藤村) eBOOK
「仕立屋マリ子の半生」(十一谷義三郎) eBOOK
「唐人お吉」(十一谷義三郎) eBOOK
「うるさき人々」(杉村楚人冠)
「時雨をたづねて」(高浜虚子) eBOOK
「室内」(竹内勝太郎) eBOOK
「枝の祝日」(竹中郁)
「ソコル」(竹中久七)
「露台薄暮」(竹久夢二)
「標的になつた彼奴」(立野信之)
「蓼喰う虫」(谷崎潤一郎) eBOOK
「卍」(谷崎潤一郎) eBOOK
「海鳴り」(鶴田知也)
「夢と真実」(富ノ沢麟太郎)
「砂上の塔」(中里恒子)
「誰だ? 花園を荒す者は!」(中村武羅夫)
「美男狩」(野村胡堂)
「詩の原理」(萩原朔太郎) eBOOK
「放浪記」(林芙美子) eBOOK
「夜風」(平林たい子)
「北の開墾地」(本庄陸男)
「村のストア派」(牧野信一) eBOOK
「田園の英雄」(松岡譲)
「淀君」(三上於菟吉)
「律子と瑞枝」(水上滝太郎)
「貧しき信徒」(八木重吉) eBOOK
「泥濘」(保高徳蔵)
「荊棘の実」(柳原白蓮)
「波」(山本有三)
「瓶詰地獄」(夢野久作) eBOOK
「上海」(横光利一) eBOOK
「風呂と銀行」(横光利一)
「兵士と女優」(オン・ワタナベ=渡辺温) eBOOK
「アパアトの女たちと僕と」(龍膽寺雄)
「放浪時代」(龍膽寺雄)
「エスタの町」(渡辺修三)

昭和4年(1929年)
「屋根の上のサワン」(井伏鱒二)
「鉄」(岩藤雪夫)
「孤島の鬼」(江戸川乱歩) eBOOK
「行け、ブラジル」(大江賢次)
「五体の積木」(岡戸武平)
「悲劇を探す男」(尾崎士郎) eBOOK
「アップルパイの午後」(尾崎翠)
「うたかた草紙」(海音寺潮五郎)
「浅草紅団」(川端康成)
「牛山ホテル」(岸田国士) eBOOK
「戦争」(北川冬彦)
「白のアルバム」(北園克衛)
「野」(木山捷平)
「シヤツと雑草」(栗林一石路)
「蟹工船」(小林多喜二) eBOOK
「不在地主」(小林多喜二) eBOOK
「美しき喪失」(西条八十)
「霧華」(斎藤瀏)
「或る断層」(ささきふさ)
「思ひ合はす」(ささきふさ)
「旗本退屈男」(佐々木味津三) eBOOK(第一話 旗本退屈男)
「レストラン・洛陽」(佐多稲子)
「豊年虫」(志賀直哉)
「夜明け前」(島崎藤村) eBOOK(第一部上) eBOOK(第一部下) eBOOK(第二部上) eBOOK(第二部下)
「艸木虫魚」(薄田泣菫) eBOOK
「昔の家」(千家元麿) eBOOK(大正13年刊『真夏の星』より)
「反逆の呂律」(武田麟太郎) eBOOK
「暴力」(武田麟太郎) eBOOK
「旋風時代」(田中貢太郎) eBOOK(第一巻) eBOOK(第二巻) eBOOK(第三巻)
「青い夜道」(田中冬二)
「母」(鶴見祐輔)
「万華鏡」(吉村冬彦=寺田寅彦) eBOOK
「太陽のない街」(徳永直) eBOOK
「由比根元大殺記」(直木三十五) eBOOK
「氾青」(長澤美津)
「新聞紙が作つた海峡」(中本たか子)
「上層の風」(楢崎勤)
「金融資本の一断面」(橋本英吉)
「竜胆」(長谷川かな女)
「植物の断面」(春山行夫)
「骨牌遊びのドミノ」(久生十蘭)
「敷設列車」(平林たい子)
「わが心を語る」(広津和郎)
「侯爵の服」(深尾須磨子)
「ひしがれず」(福田清人)
「生活の旗」(藤沢桓夫)
「吉良家の人々」(森田草平)
「四十八人目」(森田草平) eBOOK
「五月祭前後」(山田清三郎)
「仙人と人間との間」(山本和夫)
「山麓」(結城哀草果)

昭和5年(1930年)
「ある自殺階級者」(浅原六朗)
「恋とアフリカ」(阿部知二)
「感情細胞の断面」(伊藤整)
「シベリア」(大江賢次)
「マネキンの誘惑」(岡田三郎) eBOOK
「労働日記と靴」(鹿地亘)
「新説国姓爺合戦」(久保栄)
「武装せる市街」(黒島伝治) eBOOK
「工場細胞」(小林多喜二) eBOOK
「同志田口の感傷」(小林多喜二)
「暴風雨警報」(小林多喜二)
「熊の出る開墾地」(佐左木俊郎) eBOOK
「黒い地帯」(佐左木俊郎) eBOOK
「都会地図の膨張」(佐左木俊郎) eBOOK
「豹の部屋」(ささきふさ)
「困つた人達」(佐佐木茂索)
「富士に題す」(佐藤紅緑) eBOOK
「麗人」(佐藤紅緑)
「笹川の繁蔵」(子母澤寛)
「近世無頼」(城左門=城昌幸)
「恢復期」(神西清) eBOOK
「琅かん記(かんは王へんに干)」(新村出)
「大地にひらく」(住井すゑ)
「ブルジョア」(芹沢光治良)
「叛く」(竹内てるよ)
「飢渇信」(武林無想庵) eBOOK
「南国太平記」(直木三十五) eBOOK
「グレンデルの母親」(永瀬清子)
「隕石の寝床」(中村正常)
「ボア吉の求婚」(中村正常)
「地霊」(中村武羅夫)
「相川マユミといふ女」(楢崎勤)
「神聖な裸婦」(楢崎勤)
「市街戦」(橋本英吉)
「瞼の母」(長谷川伸) eBOOK
「昭和初年のインテリ作家」(広津和郎)
「牝鶏の視野」(深尾須磨子)
「冬艶曲」(福田栄一)
「傷だらけの歌」(藤沢桓夫)
「辻馬車時代」(藤沢桓夫)
「愛慾の一匙」(舟橋聖一)
「巷路過程」(細田源吉)
「聖家族」(堀辰雄) eBOOK
「不器用な天使」(堀辰雄) eBOOK
「この太陽」(牧逸馬)
「吊籠と月光と」(牧野信一) eBOOK
「好日」(松田常憲)
「マダム・マルタンの涙」(丸岡明)
「フォード躍進」(水木京太)
「葛飾」(水原秋桜子)
「昭和毒婦伝」(三角寛)
「遺産」(水上滝太郎) eBOOK
「夏期実習」(水上滝太郎)
「測量船」(三好達治) eBOOK
「暴力団記」(村山知義)
「青春譜」(柳原白蓮)
「機械」(横光利一) eBOOK
「寝園」(横光利一)
「嵐の小夜曲」(横山美智子)
「女百貨店」(吉行エイスケ) eBOOK
「新種族ノラ」(吉行エイスケ) eBOOK

昭和6年(1931年)
「文芸批評といふもの」(井上良雄)
「目羅博士の不思議な犯罪」(江戸川乱歩) eBOOK
「第七官界彷徨」(尾崎翠)
「白い姉」(大佛次郎)
「愛情の問題」(片岡鐵兵)
「ラグザーお玉」(木村毅)
「風博士」(坂口安吾) eBOOK
「黒谷村」(坂口安吾) eBOOK
「木枯の酒倉から」(坂口安吾) eBOOK
「幹部女工の涙」(佐多稲子)
「祈祷」(佐多稲子)
「小幹部」(佐多稲子)
「好人物の夫婦」(志賀直哉)
「天国の記録」(下村千秋) eBOOK
「明日を追うて」(芹沢光治良)
「耶律」(高橋元吉)
「明日」(竹内勝太郎)
「つゆのあとさき」(永井荷風) eBOOK
「海路歴程」(中河与一)
「軽雷集」(中村憲吉)
「正坊とクロ」(新美南吉) eBOOK
「断片」(萩原恭次郎) eBOOK
「一本刀土俵入」(長谷川伸) eBOOK
「清貧の書」(林芙美子) eBOOK
「風琴と魚の町」(林芙美子) eBOOK
「懸崖」(菱山修三) eBOOK
「生活線ABC」(細田民樹)
「恢復期」(堀辰雄) eBOOK
「ゼーロン」(牧野信一) eBOOK
「バラルダ物語」(牧野信一) eBOOK
「夜の奇蹟」(牧野信一) eBOOK
「貝殻追放・父となる記」(水上滝太郎) eBOOK
「銀座復興」(水上滝太郎)
「停年」(水上滝太郎)
「雨ニモマケズ」(宮沢賢治) eBOOK
「東洋車輛工場」(村山知義)
「春」(山下陸奥)
「魔子」(龍膽寺雄)

昭和7年(1932年)
「アフリカのドイル」(阿部知二)
「生物祭」(伊藤整)
「芥川竜之介と志賀直哉」(井上良雄)
「途上」(嘉村磯多) eBOOK
「二十六番館」(川口一郎)
「薔薇盗人」(上林暁)
「苔桃」(久保田不二子)
「抒情詩娘」(近藤東)
「何を為すべきか」(佐多稲子)
「国定忠治」(子母澤寛)
「椅子を探す」(芹沢光治良)
「日本三文オペラ」(武田麟太郎) eBOOK
「父母系」(田畑修一郎)
「ゲョエテ研究」(茅野蕭々)
「子」(鶴見祐輔)
「彼女の哲学」(直木三十五)
「熱帯柳の種子」(中村地平)
「ごんぎつね」(新美南吉) eBOOK
「鮎」(丹羽文雄)
「追はれる人々」(野口赫宙)
「氷を砕く」(延原謙)
「三万両五十三次」(野村胡堂) eBOOK(上巻)
「青年」(林房雄)
「シルク&ミルク」(春山行夫)
「青芝」(日野草城) eBOOK
「アキレス腱と女」(舟橋聖一)
「草笛」(星野麦人) eBOOK
「麦藁帽子」(堀辰雄) eBOOK
「燃ゆる頬」(堀辰雄) eBOOK
「酒盗人」(牧野信一) eBOOK
「帆・ランプ・鴎」(丸山薫)
「蒼波集」(万造寺斉)
「都塵」(水上滝太郎)
「二代目」(水上滝太郎)
「グスコーブドリの伝記」(宮沢賢治) eBOOK
「敵中横断三百里」(山中峯太郎) eBOOK
「女の一生」(山本有三)
「新しき上海のプライベイト」(吉行エイスケ)

昭和8年(1933年)
「湖のおどろく」(飛鳥田れい無公)(「れい」は女へんに麗)
「若い人」(石坂洋次郎)
「青の秘密」(岩本修蔵)
「喪くした真珠」(岩本修蔵)
「枯木のある風景」(宇野浩二) eBOOK
「色ざんげ」(宇野千代)
「赤外線男」(海野十三) eBOOK
「完全犯罪」(小栗虫太郎)
「暢気眼鏡」(尾崎一雄)
「人生劇場」(尾崎士郎)
「U新聞年代記」(上司小剣)
「禽獣」(川端康成)
「氷」(北川冬彦)
「五稜郭血書」(久保栄)
「歌集 くさふぢ」(小泉苳三) eBOOK
「党生活者」(小林多喜二) eBOOK
「海門橋」(小山いと子)
「鱗片記」(島本久恵)
「橋の手前」(芹沢光治良)
「人情馬鹿」(高田保)
「慾呆け」(瀧井孝作)
「釜ヶ崎」(武田麟太郎) eBOOK
「勘定」(武田麟太郎)
「市井事」(武田麟太郎)
「思ひ出」(太宰治) eBOOK
「魚服記」(太宰治) eBOOK
「おふくろ」(田中千禾夫)
「春琴抄」(谷崎潤一郎) eBOOK
「此家の性格」(檀一雄)
「月光について」(十返肇)
「白い海港の展望」(十返肇)
「鵜の物語」(外村繁)
「藤田専務の手帳」(外村繁)
「草の花」(富安風生)
「釦つけする家」(那須辰造)
「Ambarvaliaアンバルワリア」(西脇順三郎)
「煙管」(新田潤)
「北の部屋」(野田宇太郎)
「泣いた赤鬼」(浜田広介)
「それを敢てした女」(細田民樹)
「美しい村」(堀辰雄) eBOOK
「旅の絵」(堀辰雄) eBOOK
「新しき天」(牧逸馬)
「女主人」(真杉静枝)
「話しかける人」(真杉静枝)
「松山氏の下駄」(真杉静枝)
「権太面」(三上秀吉)
「新樹」(水原秋桜子)
「貝殻追放・親馬鹿の記」(水上滝太郎) eBOOK
「蜃気楼」(宮内寒弥)
「隅田川」(森山啓)
「狂人は笑う」(夢野久作) eBOOK
「氷の涯」(夢野久作) eBOOK
「面影双紙」(横溝正史)
「女の友情」(吉屋信子)
「理想の良人」(吉屋信子)
「童謡集 旗・蜂・雲」(与田準一) eBOOK
「ペリカン嶋」(渡辺修三)

昭和9年(1934年)
「帰郷者」(伊東静雄) eBOOK
「黒蜥蜴」(江戸川乱歩) eBOOK
「とむらい機関車」(大阪圭吉) eBOOK
「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎) eBOOK
「鶴八鶴次郎」(川口松太郎)
「路草」(川崎長太郎)
「網膜脈視症」(木々高太郎)
「白南風」(北原白秋) eBOOK
「晴耕雨読集」(木村荘太)
「千両胴」(陸直次郎)
「瀬戸内海の子供ら」(小山祐士)
「地に爪跡を残すもの」(佐々木邦)
「恐怖」(佐多稲子)
「日曜日」(志賀直哉)
「金色青春譜」(獅子文六)
「雨雲」(渋川驍)
「癩」(島木健作) eBOOK
「突っかけ侍」(子母澤寛)
「槿花戯書」(城左門=城昌幸)
「銀座八丁」(武田麟太郎) eBOOK
「選手」(田村泰次郎)
「日月潭工事」(田村泰次郎)
「雨の降る日は天気が悪い」(土井晩翠)
「中井商店の身上」(外村繁)
「神々しい馬鹿」(外村繁)
「道化役」(豊島与志雄) eBOOK
「ひかげの花」(永井荷風) eBOOK
「片意地の街」(新田潤)
「轟半平」(野村胡堂)
「万五郎青春記」(野村胡堂)
「氷島」(萩原朔太郎) eBOOK
「炭坑」(橋本英吉)
「沓掛時次郎」(長谷川伸) eBOOK
「十二階下の少年達」(浜本浩)
「犬吠岬心中」(細田民樹)
「物語の女」(堀辰雄) eBOOK(楡の家 第一部←「物語の女」を改作したもの)
「白い壁」(本庄陸男) eBOOK
「鼬」(真船豊)
「雪之丞変化」(三上於菟吉) eBOOK
「樹齢」(水上滝太郎)
「白夜」(村山知義)
「みごとな女」(森本薫) eBOOK
「わが家」(森本薫) eBOOK
「雑草園」(山口青邨)
「紋章」(横光利一) eBOOK
「歌集 人間経」(吉井勇) eBOOK
「一町三反」(和田伝)
「村の次男」(和田伝)

昭和10年(1935年)
「蒼氓」(石川達三)
「飛ぶ橇」(小熊秀雄)
「花嫁学校」(片岡鐵兵)
「村道」(上泉秀信)
「雪国」(川端康成)
「歳月」(岸田国士) eBOOK
「私小説論」(小林秀雄)
「ドストエフスキイの生活」(小林秀雄)
「再建」(島木健作)
「感想集 子供と母の領分」(鷹野つぎ) eBOOK
「故旧忘れ得べき」(高見順)
「一の酉」(武田麟太郎) eBOOK
「玩具」(太宰治) eBOOK
「逆行」(太宰治) eBOOK
「ダス・ゲマイネ」(太宰治) eBOOK
「道化の華」(太宰治) eBOOK
「夕張胡亭塾景観」(檀一雄)
「妖棋伝」(角田喜久雄)
「二頭馬車」(津村京村)
「橢円の脈」(寺崎浩)
「仮装人物」(徳田秋声) eBOOK
「草筏」(外村繁)
「弔花」(豊田三郎)
「愛恋無限」(中河与一)
「村の家」(中野重治)
「浪漫主義者の手帖」(林房雄)
「牡蠣」(林芙美子)
「花花」(春山行夫)
「鶏飼ひのコムミュニスト」(平林彪吾)
「津軽の野づら」(深田久弥)
「脱出」(福田清人)
「転向作家の手記」(細田源吉)
「淡雪」(牧野信一) eBOOK
「鶴の葬式」(丸山薫)
「幼年」(丸山薫)
「秋苑」(水原秋桜子)
「世継」(水上滝太郎)
「花鳥風月」(宮川曼魚)
「雨の念仏」(宮城道雄)
「丹那殺人事件」(森下雨村)
「白骨の処女」(森下雨村)
「華々しき一族」(森本薫) eBOOK
「潮流」(森山啓)
「真実一路」(山本有三)
「カンナニ」(湯浅克衛)
「ドグラ・マグラ」(夢野久作) eBOOK
「鬼火」(横溝正史)
「家族会議」(横光利一) eBOOK
「宮本武蔵」(吉川英治) eBOOK(序・はしがき) eBOOK(地の巻) eBOOK(水の巻) eBOOK(火の巻)
eBOOK(風の巻) eBOOK(空の巻) eBOOK(二天の巻) eBOOK(円明の巻)
「猿と蟹の工場」(与田準一)

昭和11年(1936年)
「冬の宿」(阿部知二)
「山桜」(石川淳)
「怪人二十面相」(江戸川乱歩) eBOOK eBOOK2
「春への招待」(江間章子)
「散文恋愛」(円地文子)
「鶴は病みき」(岡本かの子) eBOOK
「城外」(小田嶽夫)
「天正女合戦」(海音寺潮五郎)
「朱と緑」(片岡鐵兵)
「人生の阿呆」(木々高太郎)
「貧時交」(菊岡久利)
「いやらしい神」(北川冬彦)
「暖流」(五島美代子)
「晩年の父」(小堀杏奴)
「くれなゐ」(佐多稲子)
「生きる力」(佐藤義亮)
「英雄行進曲」(佐藤紅緑)
「悦ちゃん」(獅子文六)
「楽天公子」(獅子文六)
「次郎物語」(下村湖人) eBOOK(第一部) eBOOK(第二部)
eBOOK(第三部) eBOOK(第四部) eBOOK(第五部)
「遣唐船」(高木卓)
「発狂」(高橋新吉)
「井原西鶴」(武田麟太郎)
「流転の書」(武林無想庵) eBOOK
「晩年」(太宰治) eBOOK
「昨日今日明日」(長光太)
「風の中の子供」(坪田譲治)
「祝典」(寺崎浩)
「南さんの恋人」(豊島与志雄) eBOOK
「ハワイ物語」(中島直人)
「長子」(中村草田男)
「迷路」(野上彌生子)
「金狼」(久生十蘭) eBOOK
「イブの笛」(深尾須磨子)
「花粉」(藤沢桓夫)
「いのちの初夜」(北条民雄) eBOOK
「風立ちぬ」(堀辰雄) eBOOK
「花もみぢ」(増田竜雨)
「初霜」(松村英一)
「一日集」(丸山薫)
「貝殻追放・人気もの」(水上滝太郎)
「貝殻追放・老父歎」(水上滝太郎) eBOOK
「掌の性」(水上滝太郎)
「もめん随筆」(森田たま)
「かくて新年は」(森本薫) eBOOK
「神楽坂」(矢田津世子) eBOOK
「真珠郎」(横溝正史)
「良人の貞操」(吉屋信子)
「平野の人々」(和田伝)

昭和12年(1937年)
「幽鬼の街」(伊藤整)
「母子叙情」(岡本かの子) eBOOK
「地下道と松原」(菊池庫郎)
「火山灰地」(久保栄)
「かね(原題/金)」(里見ク)
「胡椒息子」(獅子文六)
「達磨町七番地」(獅子文六)
「生活の探求」(島木健作) eBOOK
「長岡京」(高木卓)
「妖精の距離」(瀧口修造)
「二十世紀旗手」(太宰治) eBOOK
「暁と夕の詩」(立原道造) eBOOK
「萱草に寄す」(立原道造) eBOOK
「臙脂」(田宮虎彦)
「花筐」(檀一雄)
「八年制」(徳永直)
「綴方教室」(豊田正子)
「判任官の子」(十和田操)
「ぼく東綺譚(“ぼく”はサンズイに墨)」(永井荷風) eBOOK
「万有引力」(永松定)
「花影」(原石鼎)
「詩集 荒地」(菱山修三) eBOOK
「鎌倉夫人」(深田久弥)
「浄婚記」(細田民樹)
「かげろふの日記」(堀辰雄) eBOOK
「遁走譜」(真船豊)
「あらがね」(間宮茂輔)
「岩礁」(水原秋桜子)
「山窩血笑記」(三角寛)
「小紳士」(森三千代)
「退屈な時間」(森本薫)
「収穫以前」(森山啓)
「濤声」(森山啓)
「路傍の石」(山本有三)
「旅愁」(横光利一) eBOOK
「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)
「物置と納屋」(和田伝)
「沃土」(和田伝)
「農場」(渡辺修三)

昭和13年(1938年)
「生きている兵隊」(石川達三)
「鶯」(伊藤永之介) eBOOK
「山居俗情」(岩本素白)
「老妓抄」(岡本かの子) eBOOK
「安住の家」(上林暁)
「暖流」(岸田国士)
「妻」(北原武夫)
「花冷え」(久保田万太郎) eBOOK
「青春の息の痕」(倉田百三) eBOOK
「幻談」(幸田露伴) eBOOK
「4A格」(小山いと子)
「吹雪物語」(坂口安吾) eBOOK
「結婚前の愛人」(佐藤碧子)
「沙羅乙女」(獅子文六)
「信子」(獅子文六)
「十円紙幣」(柴田錬三郎)
「ナリン殿下への回想」(橘外男) eBOOK
「鳥羽家の子供」(田畑修一郎) eBOOK
「陽気な土曜日」(長光太)
「風雲将棋谷」(角田喜久雄)
「大根の葉」(壺井栄) eBOOK
「子供の四季」(坪田譲治)
「縛られた女」(徳田一穂)
「白い朝」(豊島与志雄)
「天の夕顔」(中河与一) eBOOK
「乗合馬車」(中里恒子)
「在りし日の歌」(中原中也) eBOOK
「南方郵信」(中村地平) eBOOK
「南部鉄瓶工」(中本たか子)
「冬の華」(中谷宇吉郎) eBOOK
「厚物咲」(中山義秀)
「土と兵隊」(火野葦平) eBOOK
「花と兵隊」(火野葦平)
「麦と兵隊」(火野葦平)
「木石」(舟橋聖一)
「幼年時代」(堀辰雄) eBOOK
「石狩川」(本庄陸男) eBOOK
「俳諧道」(松根東洋城)
「貝殻追放・指導者氾濫」(水上滝太郎)
「風俗十日」(水上滝太郎)
「白沙の駅」(薮田義雄)
「約束」(山岡荘八)
「炎昼」(山口誓子)

昭和14年(1939年)
「篝火」(尾崎士郎) eBOOK
「死者の書」(折口信夫) eBOOK
「寒雷」(加藤楸邨)
「裸木」(川崎長太郎)
「田舎の食卓」(木下夕爾)
「雪たたき」(幸田露伴) eBOOK
「往還」(小島信夫)
「公園」(小島信夫)
「熱風」(小山いと子)
「遠い海風」(佐藤一英)
「愛と死の書」(芹沢光治良)
「如何なる星の下に」(高見順)) eBOOK
「富岳百景」(太宰治) eBOOK
「忘れ得ぬ人々」(辰野隆)
「はる・あき」(田中澄江)
「鍋鶴」(田中英光)
「都市風景」(谷崎精二)
「乳牛」(田畑修一郎)
「女の職業」(徳田一穂)
「取残された町」(徳田一穂)
「屋根裏出身」(十和田操)
「歌のわかれ」(中野重治)
「空想家とシナリオ」(中野重治)
「火の島」(中村草田男)
「碑」(中山義秀)
「砲車」(長谷川素逝)
「あさくさの子供」(長谷健)
「洞窟」(埴谷雄高)
「不合理ゆえに吾信ずCredo, quia absurdum」(埴谷雄高)
「呉淞(ウースン)クリーク」(日比野士朗)
「贋修道院」(深田久弥)
「舞扇」(北条誠)
「ほととぎす」(堀辰雄) eBOOK
「草履を抱く女」(真杉静枝) eBOOK
「ひなどり」(真杉静枝)
「芦刈」(水原秋桜子)
「杉垣」(宮本百合子) eBOOK
「体操詩集」(村野四郎)
「勝者敗者」(保高徳蔵)
「木綿以前の事」(柳田国男) eBOOK

昭和15年(1940年)
「汽車の中で」(網野菊)
「夫婦善哉」(織田作之助) eBOOK
「乳の匂ひ」(加能作次郎) eBOOK
「連環記」(幸田露伴) eBOOK
「海鴎の章」(今官一)
「寒雲」(斎藤茂吉)
「獄中の記」(斎藤瀏) eBOOK
「蜜蜂の道」(笹沢美明)
「崖」(白川渥)
「歌と門の盾」(高木卓)
「駈込み訴へ」(太宰治) eBOOK
「走れメロス」(太宰治) eBOOK
「オリンポスの果実」(田中英光) eBOOK
「草木塔」(種田山頭火) eBOOK
「狐の子」(田畑修一郎)
「笹りんどう」(田宮虎彦)
「暦」(壺井栄) eBOOK
「花影」(徳田一穂)
「火長」(中村草田男)
「春雪」(中村汀女)
「美しき囮」(中山義秀)
「風の系譜」(野口冨士男)
「月のある庭」(平林彪吾)
「巷の歴史」(広津和郎)
「姨捨」(堀辰雄) eBOOK
「木の十字架」(堀辰雄) eBOOK
「野尻(改題/晩夏)」(堀辰雄) eBOOK
「哲学入門」(三木清) eBOOK
「貝殻追放・独逸皇帝万歳」(水上滝太郎)
「浮標」(三好十郎) eBOOK
「石狩少女」(森田たま) eBOOK
「うぐひす侍」(山手樹一郎)
「桃太郎侍」(山手樹一郎)
「山羊とお皿」(与田準一)


「旋風時代」(田中貢太郎/昭和4年)
(レビュー未/以下は中央公論社より三巻同時発売された際の広告文)

旋風時代 田中貢太郎 熱著

読者に告ぐ!!
この作の真価は活字を以て読書子に訴へるべきではない。そんな手は古い。この作の真価を知るものは、誰でもない読者自身であるからだ。これこそ、国籍をもつた生ッ粋の日本文学だ。第一巻の第一行を読んだ読者は、全巻一千五百頁、二萬五千五百行を読むことを約束したも同様だ。
三巻同時発売は、読者の嵐のやうなこの熱望、このアンコールに酬いるために外ならない。乞ふ賞讃。(各巻約五百頁、各定価金一円二十銭)

田中貢太郎(1880-1941)

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「マネキンの誘惑」(岡田三郎/昭和5年)
いつも口数の少ない健吉が夕食の席で熱弁をふるった。それは、彼の妹の真佐子の友達である小林美那子のことだった。その日の昼休みに、彼が銀座に行った際、広告をもつ洋装のマネキン・ガール(※)がいて、それが美那子だったというのだ。
美那子は、以前彼の家によく遊びに来ていて、彼は彼女を好いていた。会社勤めをするようになった今では、結婚問題が話題に上るが、その時、彼の頭の中には美那子がいた。
しかし、その話を母と真佐子にすると、2人とも健吉の嫁に迎えるのには反対した。
母の理由は「近代的な性格な持主はわが家に迎えられない」「美那子があまりにも美貌でありすぎる」ということだった。
そして、真佐子の理由は「友達としては迎えられるが、兄の嫁として迎えれば、終には苦痛になりそうだ」ということだった。
さらに悪いことに、母はマネキン・ガールという職業を軽蔑していた。
それから3年…。
新聞に近代的職業婦人の好見本として美那子が取り上げられ、彼女の仕事のことや家族のことが詳しく紹介されていた。
その記事を見た真佐子は…。
時代の先頭を走る人たちは、特に旧体制派の人たちに悪く見られる。しかし、それが魅力的な世界であればあるほど大きくなる、“あこがれ”という誘惑の波は誰にも止められない。
※マネキン・ガール…現在のファッション・モデルに近い働きをした尖端的な職業婦人のこと。
 (本作品所収の平凡社「モダン都市文学II モダンガールの誘惑」脚注より)
                           (2006.9.1/菅井ジエラ)
岡田三郎(1890-1954)
大正7年に「影」で文壇デビュー。日本ではそれまで位置づけられていなかったフランスのコントという文学ジャンルを、文芸界に紹介したという点で、彼の功績は大きい。

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「目羅博士の不思議な犯罪」(江戸川乱歩/昭和6年)
原稿の催促が厳しくて1週間ほど家を空けていた時、上野の動物園でその男と会った。
閉館時間が迫っていたので、園内は人気がない。
わたしはサルの前でぼんやり佇んでいたが、そこに男が突然現れたのだ。
「サルってやつは、どうして、相手のまねをしたがるのでしょうね」
その男は旅の途中に大ザルに自分のわきさしを取られ、命の危険にさらされながらも、ある機転によって危機を脱したある男の話を聞かせた。
「まねというものの恐ろしさが、おわかりですか。人間だって同じですよ。人間だって、まねをしないではいられぬ、悲しい恐ろしい宿命を持って生まれているのですよ。…」
わたしは、彼の話にぐいぐいと引き込まれてしまった。

動物園の閉館の時間が来て、そこを出た後、わたしたちはふたりで話をしながら歩いていた。
「ぼく知っているんです。あなた江戸川さんでしょう、探偵小説の」
そして、わたしの心中を見抜いていたのか、彼はこんなことを言い出した。
「あなたは、小説の筋を捜していらっしゃるのではありませんか。ぼく一つ、あなたにふさわしい筋を持っているのですが、ぼく自身の経験した事実談ですが、お話ししましょうか。…ここのベンチに腰かけて、妖術使いの月光をあびながら、巨大な鏡に映った不忍池をながめながら、お話ししましょう」

そこには五階建てのコンクリート丸出しのビルが2つ並んで立っている。その2つのビルは表側や側面の作りはまるで異なっているものの、相対している背面だけはどこからどこまで同じ作りになっていた。男はそこの玄関番を務めていたが、そのビルの5階に住む中年の香料ブローカーがある夜に自殺をしたのだ。
警察は彼が死んだ理由を特定することができなかったが、最終的には自殺として処理した。
その後まもなく、同じ部屋に次の借り手が付いたが、ある晩に香料ブローカーの時とまったく同じように自殺。
警察はいろいろ調べてみたものの結局分からずじまい。
巷で、その部屋に入ると、死にたくなってくるという噂が流れたが、今度は、そのビルの豪傑事務員が化け物屋敷を探検するような意気込みでその部屋を借りることになった。
しかし…。その男も、先のふたりと同じように首をくくって自殺してしまったのだった。

上野動物園で主人公が見知らぬ人と出会うという書き出しは、他の作家の作品でもしばしば見かける。
サルのまねの話は、まるで「おさるとぼうしうり」だ。
しかし、この怪談のような殺人譚の着想点はいかにも乱歩らしい。月光、都会の喧噪の中にある幽谷、模倣(まね)…。これらが織りなす妖しい世界。
ところで、まったく関係ないが、上野動物園がいつ開館したのか気になったので調べてみると、1882年(明治15年)とあった。意外と古い。
                           (2007.10.2/菅井ジエラ)
江戸川乱歩(1895-1965)

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「彼女の哲学」(直木三十五/昭和7年)
彼女はあるものに興味があった。それは占いや験担ぎといった類のものだ。
例えば、“四つ葉のクローバを、靴下の中へ入れておく”“新月を見たなら、人影の無い所で、祈るといい”など、その方面のことについては、とても明るかった。
だが、占いなど何も信じない彼女の夫にとっては、時には迷惑以外の何ものでもない。
彼女は新聞の占い欄が当たるか当たらないかによって、その価値を決めて、当たらない新聞は購読を断るという始末。さらに、縁日でつぼみがたくさん付いた薔薇を見つけると、「これらのつぼみが咲く間にきっと良いことがある。つぼみ一つあたり換算すると安い買物」だと買ってしまうほどだったから…。
…ところで、それは彼女が福寿草を買ってきた日のこと。
夫が福寿草を見ながら、「今日、社へ、素敵なタイピストが、入ったよ」と言うと、彼女はまたいつもの癖で、その新人タイピストと福寿草を結びつけて考えてしまう。
(この福寿草が、もし、枯れたり、咲かなかったりしたならきっと、この人が、タイピストと一緒になったのだ──妾、さうきめておく。さう決めておくわ)
そして、彼女は夫にこう言うのだ。「そのタイピストに貴下(あなた)が、何かしでもすると、この花に、ちゃんと、それが現れてくるの」
そう言われた夫はたまったものじゃない。
「信用が無いのかね、俺は」
“こいつに、これさへ無けりゃいいのに”と思う夫。
しかし、タイピストが入社してから、8日目のこと。彼の会社に取引先から歌舞伎の観劇招待券を30枚もらい、会社のみんなで行くことに。もちろん、その中にはタイピストの女性もいて…。
舞台を今に置き換えても十分に通用しそうなストーリー。時代物が多い著作の中で、古さを感じない好編。いつの時代も女性は占い好きだということか。
                           (2006.7.23/菅井ジエラ)
直木三十五(1891-1934)
(以下、雑誌「富士」(1952.03/世界社)「作者の横顔 直木三十五氏」より抜粋)
…昭和九年二月、脳膜炎にて帝大病院にて逝去、享年四十四歳。氏の病状は刻々ラジオ・ニュースに放送され、文壇人の死としては、前例を見ない大きな取扱いを受けた。氏の持っていた名声と人気の反映である。

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「生物祭」(伊藤整/昭和7年)
父が危篤だという電報で実家に帰ると、父はまた持ち直していた。夜中に発作を起こすこともあったが、弟がウグイスの爪を切ってやっている時などは弟と会話を楽しんでいて、死の数日前にあるとは信じられないほど落ち着いていた。外に出てみるとスモモの花が強い匂いを放ちながら咲き、遠くの林には落葉松の新しい芽が吹いている。北国の六月は春真っ盛りだ。
病院で医者に父の病状を聞くと、「あと一週間位で何か変化があれば難しい」という返事。今日の医学ではまだ根本的な療法がないという答えだった。病院の外では八重桜が咲き乱れている。むせかえるような花粉を撒き散らしながら、生殖を続けていた。
家に帰り、夜みんなが寝静まってから、私は散歩に出た。スモモの木の下でじっと立って想いをめぐらせる。
『父はどうしているか。眠って、死の前の不安な呼吸を喘いでいる。お前は誰だ。その父の子だ。今死のうととしている者の子が此処の花のなかで眼をつぶっている。…』私は夢魔に襲われた。「母や弟たちは疲れて眠っているだろう。だが父の眠りはすぐ破れてはまた続くのだ」
……医者が帰った後、母が私に言った。
「峰子に電報を打っておいで」
私は郵便局に行って、電報を書いた。
「チチキトクスグコイ」
生に向かうものと死に向かうもの。残されるわたしの心理を巧みに描きながら、両極にあるその2つを見事に対比させている。
                             (2003.10.3/菅井ジエラ)
伊藤整(1905-1969)
北海道出身。1926年に処女詩集『雪明りの路』を刊行。はじめは詩人としてデビューした。その後、1932年に小説集「生物祭」を刊行。以降、「幽鬼の街」「鳴海仙吉」「若い詩人の肖像」「氾濫」など数々の作品を発表した。また、小説の他、評論や翻訳の分野でも活躍。ロレンスの「チャタレイ夫人の恋人」の翻訳刊行の際は、猥褻文書とされ「チャタレイ裁判」の被告人になった。なお、1990年には彼の功績により伊藤整文学賞が創設されている。

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「狂人は笑う」(夢野久作/昭和8年)
「ホホホホホホホ……」
 だっておかしいじゃありませんか。という文句で始まる短編作品。

色々な事件に巻き込まれて気が狂ってしまった女の独白で綴られるお話。
女は自分がいかに奇妙な境遇の持ち主かを語り、最後にホホホホホと笑うしかないという。

夢野久作が当時どのように扱われていたのか、今現在どのように扱われているのか詳しく知らないし、
あえて知りたいとも思わない。むしろ、その人となりでは父親の杉山茂丸の方が興味深い。
しかし、この作品に限っては一発屋のB級お笑い芸人的な要素しか垣間見えない。
シチュエーションコメディというか、コント的な作品というか、
作者本人の思想や経験や趣向が反映されているというよりかは、
方法論だけで作品が構築され、最初にやったもの勝ち的なスタイルのような気がする。
                             (2006.7.22/A)
夢野久作(1889-1936)

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「結婚前の愛人」(佐藤碧子/昭和13年)
甲野時彦が夫人の卯女子(うめこ)と出会ったのは、横浜山手通りの海の見晴らせる公園だった。
白い服を着た年若い美しい令嬢が、彼の眼には“一幅の名画”のように映ったのだ。
彼はその後、同じ公園で何度か彼女を見かけたが、彼女と知り合いになるのに大変骨を折った。というのも、彼女は彼の姿が見えると静かに席を立つようになってしまったから…。
それがオデオン座に映画を観に行った時、偶然彼女と出会った頃から事態が一変した。その後、彼は友人を介して彼女に求婚。その時は彼女の両親に反対されたが、それから3年ほど経って再び求婚した時には、あっさり彼女の承諾も得られ、めでたく2人は結婚した。
時彦は、卯女子が自分と出会った当初は傷心中で、心を癒すために公園にたびたび来ていたということを友人から聞いていたので、卯女子の言うことなら何でも優しく聞いてあげようと心に決めていた。
結婚をして2、3年のうちは夢のような生活を送っていたが、それが10年近くになった頃から卯女子は時彦につらくあたるようになっていた。そして、「成べく私は貴君(あなた)の側に居たくない」というほど夫婦仲は冷めてしまっていたのだった。……。

冷えきった2人の仲が、あることをきっかけにして再び元に戻っていく。
卯女子が常に心のどこかで感じていた寂寥感。それを解くのは、こうしたほんのちょっとした愛情のかけらなのだろう。

この作品は、「新青年」の昭和13年臨時増刊号で特集された新人推薦傑作6作品の1つとして掲載されている。推薦人は菊池寛。菊池寛は作者についてこう記している。
“佐藤碧子は、私の小説に於けるたった一人の弟子と云ってもよい女性である。その明朗にして慈味のある描写は、その新味に於て、その味いに於て現代有数のものだと思っている。将来大衆文学が現在よりも、高級化する時、佐藤さんは第一線に立つ作家ではないかと思っている。”
                             (2006.8.31/菅井ジエラ)
佐藤碧子(1912-2008)
東京都出身。菊池寛の秘書を務めた。小磯なつ子の筆名で第23回(昭和25年上半期)直木賞候補にあがったこともある。

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本企画の制作にあたっては、以下のHPサイトを参照させていただいております(順不同)。
青空文庫 Aozora Bunko
 (https://www.aozora.gr.jp/)
国立国会図書館デジタルコレクション
 (https://dl.ndl.go.jp/)


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