『南から来た男』ロアルド・ダール



「短編のすすめ」というコーナーの中で、ダールを紹介しないわけにはいかない。世間には短編の名手と呼ばれる作家が数多く存在するが、ダールをその中の一人に挙げる人は多いはずだ。彼の短編にはどれもあっと驚くようなオチが用意されてあって、不思議な読後感がある。そんなダールの作品をこれまで一度も読んだことがないという人のために、どの作品を紹介すればよいか大変悩んだが、まずは傑作の誉れ高い『南から来た男』を挙げることにした。
この話は、彼がよく扱う「賭博」がテーマ。ホテルのプールサイドで若いアメリカ人の青年が南米出身らしい初老の男から賭をもちかけられる。青年が持っている、必ず火がつくというライターで10回連続で着火させることができるかという賭だ。そんな他愛もない賭に老人は自分の持っているキャディラックを賭けようという。「それに見合うものなんてぼくにはありません」と話す青年に、老人はとんでもないものを要求する。 それは青年の左手の小指だった。ホテルの一室で、左手をテーブルの上に釘で固定されながら賭に挑む青年。「ワン」「ツー」「スリー」「フォー」…。緊張が高まっていく。
このスリル感。最後の一行まで分からない結末。やはりダールは短編の名手に違いないと私は思う。この毒々しさが性に合わないという人も中にはいると思うが、逆にこれが病みつきになるという人も必ずいるはずだ。
                      (2004.8.29/菅井ジエラ)

『あなたに似た人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)収録作品
「味」
「おとなしい兇器」
「南から来た男」
「兵隊」
「わがいとしき妻よ、わが鳩よ」
「海の中へ」
「韋駄天のフォックスリイ」
「皮膚」
「毒」
「お願い」
「首」
「音響捕獲機」
「告別」
「偉大なる自動文章製造機」
「クロウドの犬」


ロアルド・ダール(1916-90)
ウェールズ生まれ。ノルウェー人を両親にもつ。『あなたに似た人』は『飛行士たちの話』(同じくハヤカワ・ミステリ文庫)に続いて、1956年に出版した第二短編集。この作品集によって作家としての地位を不動のものにした。

 

 

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