『トリケラトプス』河野典生



父と子がサイクリングに出かけた帰り道、5、6メートル先の十字路を横切る巨大な影を見る。ブルドーザーか10トントラックか、いやあれは何か生き物に違いない。不思議に思っていた二人だが、二人同時に見ているのだから幻覚というわけでもないらしい。ただ、巨大な生物が街に出現すれば大きなニュースになってもいいはずだが、何もない。
その日の夜、父親は寝付かれないまま起き出してきて酒を飲んでいた。すると戸外で物音がする。うなり声がする。カーテンの隙間から覗いてみると、そこには巨大な黒い影、夜目にも鋭く光る目があった。
二人だけが見える恐竜の世界。彼らの住む新興住宅地の風景と恐竜たちが重なり合って見える光景には神々しささえ感じられる。
                      (2004.10.6/菅井ジエラ)
※河出文庫『恐竜文学大全』所収

 

 

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