アメリカ・カナダ文学を読む



ポール・オースター『ミスター・ヴァーティゴ』



セントルイスの街で小銭をせびりながら暮らす9歳の少年ウォルト。
その彼に、黒いタキシードとシルクハットでめかしこんだ男が声をかける。
「お前は獣同然だ。人間の形をしたゼロだ。私と一緒に来たら、空を飛べるようにしてやるぞ」
「もし、お前の十三歳の誕生日までに、空の飛び方を教えられなかったら、斧で私の首を切り落として構わん」。
この何ともいかがわしいイェフーディ師匠との出会いが、少年の運命を大きく変えることになる。
宙に浮かぶための修行は苛酷を極め、生き埋めにされたり、炎の輪の中に一晩座らされたり、屋根裏でロープにぐるぐる巻きにされて三日間ぶら下げられたりもした。
そして、ついにそれは何の前触れもなくやってくる。
これまで誰一人なしえなかった技を身につけたウォルトは、師匠とともにアメリカ各地を巡業し、成功を収めていく。
しかし、ある日、原因不明の頭痛に見舞われてから、事態は急変してしまうのだった。

激動する1920年代のアメリカを舞台に、空飛ぶ少年ウォルト・ザ・ワンダーボーイの半生を描いた物語。
今やアメリカを代表する作家のひとりとなったポール・オースター。彼が描くファンタジーに心が和む。
(柴田元幸訳/新潮社)
                      (2006.7.20/菅井ジエラ)

※以前、某ネット書店のレビューとして書いたものを加筆・訂正した。

 

 

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