最終更新日 2016年5月4日
戦争文学を読む | |
最新アップ状況 大岡昇平の第二次大戦の東南アジア戦線での捕虜体験を元に生々しく描いた作品。 戦場で生命の危険と直面して戦っているごく普通の日本人が、鬼畜と化していくさまがリアルに描かれている。 この小説は作者自身の実体験を元にしていて、別の意味で偶然の賜物だ。 東南アジアのジャングルが人間を狂わす魔力をもっているようにさえ思える。 テレンス・マリック監督の「シンレッドライン」をこの作品を読んだ後見ることをお薦め。 (2004.10.17/伊藤義人) | |
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ロバート・キャパ『ちょっとピンぼけ』 戦場カメラマンとして有名なロバート・キャパが、戦場カメラマンとして成功していく過程を、 恋人への思いをつづりながら記した数年におよぶ日記的なエッセイ。 類まれな人生を歩んだ人の体験記なので、読んでいくうちにまるでフィクションのように思えてくるのが不思議だ。 キャパ憧れのヘミングウェイと遭遇する場面があるが、最後にヘミングウェイの著作のような結末を迎えるところがしゃれている。 ヘミングウェイの作品より面白いと思えたのは私だけではないと思う。 (2004.10.17/伊藤義人) | |
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苗秀『残夜行』 舞台は第二次大戦最中のシンガポール。日本軍に占領される中、一部のシンガポール人は日本軍に対してレジスタンス活動を行う。大半は日本軍の抑圧と貧困に耐えながらの生活を強いられる。主人公の莎莉はまだ幼い頃教師をしていた両親たちが戦死し、その直後身寄りのない莎莉の前に叔父が現れる。叔父は常に酔っ払っているような飲んだくれのならず者だったが、まだ少女の莎莉は藁をもすがる思いで叔父に助けを求める。ところが、叔父は姪である莎莉の肉体をもてあそんだ後、莎莉を売春宿に売ってしまうのだった。莎莉はもってうまれた美貌のおかげでパトロンがつき他の娼婦のように毎日大勢の客を採らなくてもよいという良い待遇を受けながらもやはり娼婦から抜け出したいという気持ちが高まり、大人になった莎莉は逃げ出すのだった。 新劇のような技とらしい会話や、アクション映画のようなストーリー展開はいただけないが、当時のシンガポールの街並み、庶民の生活、日本軍による虐殺など歴史資料的な価値を感じさせた。 当時の日本軍は検証というものを行っていた。シンガポール市民を集めいわゆる検問、抗日感情のあるかないかの取り調べを行い、全てパスしたものは「良民証」というものを発行し、そうでない者は海岸などに連れて行かれ惨殺されたという。江戸時代に行われたキリシタンに対する踏絵と同様のことを行ったというわけだ。ナチスドイツもそうだが、民族主義が過激なまでに高まると、ファシズム国家は自分たちの権力・財産・土地を守り、さらに拡大しようと他の血の排除にかかる。 ちなみに、戦後、土地造成工事中に土中から大量の人骨が発見され、1967年には日本軍に惨殺された人々を慰霊して高さ120メートルある「日本占領時期死難人民記念碑」が市の中心部に建造された。 (2007.3.13/伊藤義人) | |
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