P・G・ウッドハウスを読む



「ウェブスターの物語(The Story of Webster)」(1932)


「猫は犬ではないんだ!」
「猫は利己的だ」
「猫どもは信頼できない」
その日、<釣人の憩い>亭の談話室で繰り広げられていたのは“猫”について。
各人がいろいろな意見を述べていたが、それらを聞いていたマリナー氏は、誰もまだものごとの核心に迫っていないと言い、ちょうど良い例だとして、いとこのエドワードの息子ランスロットが味わった奇妙な体験について話し始めた。
ランスロットは幼くして両親を亡くしてから、地方執事という聖職にあるシオドアという名の伯父に育てられた。
伯父は将来はランスロットも聖職にと思っていたが、当の本人は成年するとロンドンで画家になりたいと言い出したため、ふたりはその後4年もの間連絡を断っていた。
しかし、ランスロットがB・B・カーベリ=パーブライト夫妻に依頼された、彼らの一人娘ブレンダーの肖像画に手を入れていると、彼のフィアンセで詩人のグラディス・ビングリーが手紙を持って現れた。
外で郵便配達から直接渡されたらしく、ランスロットは手紙を開けてみると、驚くなかれ音信不通だった伯父からだったのだ。
“親愛なるランスロット”から始まる手紙には、伯父が西アフリカに主教職として赴くこと。彼には愛猫ウェブスターがいるが、気候が厳しいため、現地へは連れていけない。そこで“親愛なる甥”にあずけたいということが書かれていた。
ランスロットが手紙を読み直していると、玄関のドアが鳴り、そこにバスケットを持った男が立っていた。中からミャオという鳴き声がしたので、中身が分かった。
「おーい」
「どうしたの?」
「猫が着いたよ」
ウェブスターは先祖代々教会で生まれ育った猫の子孫だけあって、洗練された物腰を備えていた。……

その時、この猫がランスロットの生活を狂わせてしまう存在になってしまうと誰が予想できただろう。
ランスロットの運命はどうなるのか。……
犬と違って、確かに猫の表情にはこうした感覚に陥らせるものがある。だが、結局はウェブスターも“あの”誘惑には叶わなかったか。

★所収本
・レスリー・オマーラ編・堀内静子訳/二見書房『気ままな猫の14物語』、柳瀬尚紀編訳/大和書房『猫文学大全』(ウェブスターの物語)
・宮脇孝雄訳/光文社文庫『ネコ好きに捧げるミステリー』、同訳/「EQ」平成2年(1990)3月号(No.74)(ウェブスター物語)
・長谷川修二訳/東成社『玉子を生む男』(猫ウェブスター氏)

                      (2006.12.27/菅井ジエラ)

 

 

「P・G・ウッドハウスを読む」ページトップヘ
「文芸誌ムセイオン」トップヘ

All Rights Reserved Copyright (C) 2004-2016,MUSEION.

 

inserted by FC2 system