P・G・ウッドハウスを読む



「ジーヴズと降誕祭気分
(Jeeves and the Yule-Tide Spirit)」
(1927)


朝食を食べている時、バーティは今朝レイディ・ウィッカムから手紙が届いたことをジーヴズに伝えて、こう言った。
「クリスマスのお祝いはスケルディングスに来てほしいとさ。必要なものは揃えて詰め込んでくれ。向こうへは二十三日に発つ。…」
スケルディングスにはレイディ・ウィッカムの屋敷がある。つまり、クリスマスは彼女の屋敷で過ごそうというのだ。それまでは、ふたりはクリスマスが終わるとすぐにモンテ・カルロに行く予定になっていて、ジーヴズはそれをとても楽しみにしていた。だからバーティがそう告げた時は、いつもなら表情を表に出さないジーヴズもさすがにがっかりしているようだった。
だが、バーティには計画を大きく変えてまでクリスマスの時期にそこへ行く理由があった。アガサ叔母からレイディ・ウィッカム邸には、あのサー・ロデリック・グロソップも滞在しているという話を聞いた後も、スケルディングス訪問に執着したのには訳があるのだ。理由の1つはサー・ロデリック・グロソップの甥であるタッピー・グロソップがクリスマスに絶対やってくるという情報をつかんでいたから。以前、バーティはタッピーに苦い思いをさせられたことがあり、ここで会ったが百年目、恨みを晴らすのに、このチャンスを使わなければ男がすたると思ったのだ。それともう1つ。それはレイディ・ウィッカムの娘、ロバータの存在だ。バーティは彼女に恋をしていたのだ。
“あの目はどうだい!”“すばらしい髪!”“お茶目なかわいさ”…。
バーティの伴侶として、彼女はふさわしいと思わないと話すジーヴズだったが、バーティは「何たるたわごとだ」と言ってまったく取りあわない。
「…結構だ。ジーヴズ、もう用はないぞ」
さて、バーティはどうやってタッピーへの恨みを晴らそうかと悩んでいたが、ジーヴズの頭を借りなくても名案が生まれた。それはロバータに彼がその話をした時、彼女がひどく同情して、学生時代によくやったという方法を教えてくれたのだ。
それは長い棒の先に縫い針をつけたものをあらかじめ用意しておき、それを持って夜中に目指す相手の寝室に侵入。ベッドの中にある湯たんぽに針を突き刺して穴を開けるというもの。
“こんな方法を考えられる女性なら、ぼくの最高の伴侶になれる”と、いたく感心したバーティは、早速その日の夜に決行することに。眠気を振り払いながら夜中になるまで待ったバーティは、棒を手にタッピーの部屋に忍び込んだのだが…。
いつものことながら、常に先の先まで読むジーヴズの洞察力には脱帽。それでいて、自分の目的もちゃんと果たすところはさすが、さすがである。

★所収本
・岩永正勝・小山太一共訳/文藝春秋『ジーヴズの事件簿』(ジーヴズと降誕祭気分)
・延原謙訳/改造社『世界ユーモア全集2 英米篇』、上塚貞雄訳/「新青年」昭和3年9月号(湯タンポ騒動)
・森村たまき訳/国書刊行会『でかした、ジーヴス』(ジーヴスとクリスマス気分)

                      (2006.7.8、2006.7.28追記/菅井ジエラ)

 

 

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