最終更新日 2004年11月26日

エドガー賞受賞作品を読む

●エドガー賞について
1年に一度、優れたミステリ作品に対して、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)がその栄誉を讃え贈る賞。ミステリ作品を対象とする賞としては、世界でも屈指だといえる。
この賞には処女長編賞、長編賞、短編賞の他、批評賞、実話賞、映画賞、ラジオ賞などさまざまな部門が設定されているが、ムセイオンでは前記3賞(処女長編賞、長編賞、短編賞)を対象に紹介していきたい。

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【作品レビュー】     

最新アップ状況 
NEW! 1955年(処女長編)レイン・カウフマン「完全主義者」(2004.11.26)

目 次 
1955年(処女長編) レイン・カウフマン「完全主義者」
1957年(短編) ジェラルド・カーシュ「壜の中の手記」
1970年(短編) マージェリイ・フィン・ブラウン「リガの森では、けものはひときわ荒々しい」

近日アップ予定 
1946年(処女長編) ヘレン・ユースティス「水平線の男」
1947年(処女長編) フレドリック・ブラウン「わが街、シカゴ」
1959年(処女長編) ヘンリイ・スレッサー「グレイ・フラノの屍衣」
1970年(処女長編) ローレンス・サンダーズ「盗聴」
1988年(短編) ビル・クレンショウ「映画館」


1955年(処女長編) レイン・カウフマン「完全主義者」
自分の思い描いていた理想的で落ち着いた生活を手に入れたマーチン・プライヤー。しかし、その幸せな日々も長くは続かず、一通の手紙によってぶち壊されてしまった。なぜなら、その手紙は脅迫状だったからだ。
その内容は、マーチンが妻のグレースを殺す場面をそっくり写真に収めたというものだった。そう、マーチンは理想的な生活を得るために妻を死に追いやっていたのだ。
マーチンは手紙の内容から、脅迫者は彼の少ない友人のなかの誰かに違いないと推測する。
そして脅迫者の候補としてリストアップしたのは5人。できる限り早く脅迫者を探して始末しなければ、彼の前に安穏の日が再びやってくることはない。
かくしてマーチンの脅迫者探しが始まった。
“完全主義者”を自認するマーチンは、脅迫者候補リストの中から一人また一人と候補者を絞り込んでいく。しかし、候補者の一人、サリーに魅かれていくに従って、彼の推理に支障をきたすようになるのだった。
果たして、脅迫者は一体誰なのか。そして脅迫者探しの結末は?
かつて冷酷無比であったとされるマーチンがサリーに熱を上げていく展開には、少し違和感を覚えなくもないが、全体的にとても良くできていると思う。マーチンも人の子ということなのか。決して読んで損はない作品だ。
(ハヤカワポケットミステリシリーズ<HPB502>『完全主義者』所収)
                           (2004.11.26/菅井ジエラ)

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1957年(短編) ジェラルド・カーシュ「壜の中の手記」
メキシコ中南部のクエルナバカで行商人から購入したオショショコの壜。その形のユニークさから、それが何に使われていたのか知りたくなった私は、大英博物館に分析を依頼する。楽器、パイプといろいろな主張が出て、結果は分からずじまいだったが、壜のなかに入っていた細く巻かれた紙が話題にのぼった。なぜなら、それがどうやら1913年にメキシコに入り、そのまま行方不明になったアメリカの作家、アンブローズ・ビアスの直筆文書のようだったからだ。
その文書によると、ビアスは、オショショコの村に入った後、山奥である種族と出会い、大変な歓待を受けたようだ。黄金の皿で食べ、水晶のグラスで酒を飲む。何か用事があればすぐに呼べるよう、部屋には小さな金の鈴を置かれていた。一族の長と名乗る男は流暢に何カ国語も駆使し教養もある。そしてビアスの持病であった喘息も不思議な好い匂いのする薬によってすっかり良くなり、リューマチも7人の美女による全身マッサージによって治ってしまった。これ以上ないと思われる、異常なまでのもてなしぶり。しかし、どうしてこれほどまでのもてなしをしてくれるのか。それがなぜか分からない。そんな疑問を持ち始めた彼は、突然ある恐怖に襲われるのであった。
底辺をはうように徐々に忍び寄る恐怖。不気味な雰囲気が充満しているが、それでいて下品さがない。カーシュの作品は、どれもそんな上質さを感じられるところがいい。
(晶文社『壜の中の手記』所収)
                           (2004.8.29/菅井ジエラ)

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1970年(短編) マージェリイ・フィン・ブラウン「リガの森では、けものはひときわ荒々しい」
8カ月前に重い心臓発作を起こしたキャサリン・マニング。彼女はそれ以来、クォラジンという薬を服用している。クォラジンは彼女の血液をさらさらにすると同時に、頭のなかを溶かしていく。そして彼女の頭のなかに黒い森が現れるようになった。フランスの画家、ルソーの絵に出てくる森のような光景が広がるのだ。 そして…とさらに紹介していきたいが、この作品をあらすじを含めて端的に表現するのはとても難しい。正直なところ、今の私にはできないと言った方が良いかもしれない。翻訳がまずいのかと思ったが、深町真理子訳のため、それも考えにくい。ということはすべて私の読解力のなさなのだろう。 この作品はエドガー賞最優秀短篇賞を受賞すると同時に、O・ヘンリ賞も獲得している。私自身ルソーの絵は好きで、彼の複製画を随分探し求めたこともある(結局買えず終いだった)が、ルソーの絵の世界が広がるこの作品については、あまり理解できなかった。そのため、一定の時間を置いて、もう一度再読してみようと思っている。
(深町真理子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫『エドガー賞全集(アメリカ探偵作家クラブ傑作選6 )』所収)
                      (2004.10.11/菅井ジエラ)

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