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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1974年
レイモンド・カーヴァー「他人の身になってみること」


作家のマイヤーズと妻のポーラはバーでクリスマスの夜を祝っていたが、ポーラの提案で以前家を借りていたモーガン夫妻の家を訪ねてみることにした。マイヤーズ夫妻はモーガン夫妻との共通の知人を介して家を借りていたが、当の両夫妻はお互いにまったく面識がない。せっかくのクリスマスなんだから、メリー・クリスマスを言いに行こうというのだ。
モーガン夫妻はマイヤーズ夫妻の突然の訪問を笑顔で歓迎する。そして、彼らはマイヤーズが作家をしているのなら、私たちの話を聞いて、できれば小説の題材に使ってほしいと言うのだった。そして夫のエドガーから話をしだす。
例えば、こんな話。大学で教鞭をとっていた彼のかつての同僚が、女子学生の一人といい仲になる。数ヶ月後、彼は20年ばかり連れ添った妻に離婚したいと持ち出した。妻は怒り心頭になり、子供たちもこの騒動に加わる。そして彼が家を出ていこうとしたその時、息子が彼に向けて投げたスープ缶が額に当たり、彼は脳しんとうを起こして、現在重体になっている。
「次の話は妻からしてもらおう」と言うエドガーに、もうそろそろ失礼しますと席を立つマイヤーズだったが、エドガーは「この話を聞けんというなら、君は私の家内を侮辱することになる」と言い出す。
歓待ムードいっぱいと思われた二人の訪問も、それからどんどん調子が違ってきて…。
何とも皮肉たっぷりのストーリー。“どこの骨とも分からない奴らに家を貸したのがそもそもの間違いだった”と思っていた(であろう)モーガン夫妻と、彼らに勝手に変に思われて苦笑するしかないマイヤーズ夫妻のクラムジーなクリスマスの夜。タイトルにある「他人の身になって」考えることの難しさをひしひしと感じる。
(村上春樹訳/中央公論社『頼むから静かにしてくれ─レイモンド・カーヴァー全集1』所収)
                           (2004.5.1/B)

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