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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1934年(First Prize)
ルイス・ポール「ジェドウィックもう大丈夫だ」


「奥さん、俺に水をくんねえけ?」
ジェドウィックは井戸の水をくんでいる女性に言った。太陽はバージニアのハイウェイをぎらぎらと照らし、彼は汗でびっしょりだった。
「いいよ」女は答えた。彼女は背が高い黒人だったが、ジェドウィックほど黒くはない。
「おめえさんこの近所の人かよ?」
「俺あこの辺じゃねえ…ここに来たんでもねえ、アレクサンドリヤに行ぐにゃどこさ行ったらいいかね?」
彼はアレクサンドリアからマンハッタン駅の貨物列車に乗ってニューヨークに行こうと思っていたのだ。
「八マイルから十二マイルぐれえよ」
ざっと十マイル。炎天下の中を四時間近く歩かなければならない。
どこかで休憩して、足をのばして眠りたい。食事を全然取っていないので飢えにも襲われた。
だが、彼はその度に決意を新たにして自分を奮い立たせた。
ニューヨークに行けば自由が手に入る。誰が捕まるものか。このジェドウィックが捕まるなんて思っているのか。貨車の中で休むんだ。
“ジェドウィック逃亡”。
彼はマンハッタン行きの貨物列車に乗るべく、照りつける太陽がまぶしい中を、駅目指して急いだのだが…。
著者のルイス・ポールの作品を読むのはこれが初めてだったが、所収本のあとがきを読むと、“この短篇は有名”とあった。事実、この年の「First Prize」に選ばれているのだが、率直なところ“First Prize”といえるだけのテーマ性・独自性を感じることができなかった。
(小野寺健訳/河出書房新社/サマセット・モーム編『世界文学100選(5)』所収)
                           (2006.12.19/B)

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