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O・ヘンリ賞受賞作品を読む




1938年
ウィリアム・サローヤン「美しい白馬の夏」


アラムが9歳の夏に起きた出来事。
従兄のムーラッドが、朝の4時に家にやってきて、アラムの部屋の窓をたたいた。ムーラッドは、アラムを除いてみんなに変わった人間だと思われている。アラムは飛び起きて、窓の外のムーラッドを見てみると、そこに美しい白馬にまたがる彼の姿があった。
しかし、その光景をアラムは信じることができなかった。というのは、彼の一族はみんな貧しくて金がなかったからだ。一族の長たちでさえどうやって金を手に入れているかわからないほどだったが、それにも増して一族は正直で有名だったので、ムーラッドの姿を見て、にわかに信じることができず、夢に違いないと思った。
“ムーラッドが馬を買えるわけがないと知っていたし、買ったのでなければ盗んだことになるが、彼が盗んだとは考えたくなかった。” でも…。
「ムーラッド、その馬をどこで盗んだんだ」
「乗りたけりゃ、窓から飛びおりろ」
もう疑問の余地はない。ムーラッドは馬を盗んだのだ。だが、ここでアラムは思った。
“乗るために馬を盗むのは、金銭のようなものを盗むのとは別で、これは盗みにならないかもしれない。…”
アラムにとって、馬は憧れだった。
アラムは急いで服を着て、窓から庭に飛びおり、ムーラッドの後ろにまたがった。……。
アラムが物心ついた頃から憧れていた馬という生き物。9歳の夏の日の朝に見た白い馬。アラムの幼い日の記憶に、実直さと好奇心の両面をもつ少年の心が感じ取れた。
(三浦朱門訳/福武文庫『我が名はアラム』所収)
                           (2006.9.18/B)

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