1956年
ジョン・スタインベック「M街七番地の事件」
この夏のはじめ、わたしが家族と一緒にパリのM──街七番地のきれいな家に住んでいた時、
それは起こった。
最近8歳になったばかりの下の息子、ジョンは
生まれてからアメリカ暮らしをしている間に
アメリカ特有の“風船ガムを噛む”という風習を身につけてしまっていた。
彼はパリに“かのおぞましい物質”を持ってくるのを忘れてしまい、私としてはとても喜んでいたが、
それもわが家の古くからの友人がジョンを喜ばせようと
大量のガムをお土産として買ってきたのだった。
わたしは、この件でジョンとルールを決めた。
そのルールの1つが、わたしが考えをまとめようとしている時には絶対にチューイングガムを噛まないこと。
ジョンは快くそのルールを受け入れたのだが…。
わたしがエッセイを書いている時、彼が風船ガムを噛み続けている。
わたしが「ルールは知っているだろう」と聞くと、
目に涙を浮かべながら、「ぼくがやったんじゃないよ!」
「どういう意味だ、おまえがやったんじゃないとは?」
「お、お、おとうさん!…ほんとにぼくがやったんじゃないってば…」
パリが舞台のおどろおどろしい話。
想像すると気持ち悪い。
(深町真理子・訳 畑農照雄・画/早川書房『ミステリマガジンNo.256 1977年8月号』所収)
(2013.12.29/B)
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