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「豚ーやあーあーあーい!(Pig-Hoo-o-o-o-ey!)」(1927)


エムズウォース(エムズワース)伯爵の黒豚「エンプレス・オブ・ブランディングス」が、第87回畜産共進会で「肥満豚部」の銀牌を獲得した背景にはある秘話があった。その秘話とは…。

それは黒豚の飼育係であるジョージが、酒に酔い暴行事件を起こしたために拘留されてしまったことが事の発端だった。
黒豚は飼育係がいなくなってから何も口にしようとしなくなってしまい、エムズワース伯はそれが気が気でない。共進会が間近に迫っているのにどうしたらよいものか、そのことを考えると、彼は何も手につかなかった。
そんな折、彼の元に妹のコンスタンスが困惑顔でやってくる。何やら“大変なこと”が持ち上がったらしい。聞くと、姪のアンゼラが婚約者のヒーチャムに婚約を破談にする旨の手紙を送り、ジェームス・ベルフォードと結婚すると言っているというのだ。アンゼラは二年ほど前にジェームスとセンチメンタルな“事件”を起こしており、コンスタンスはジェームスのことを良く思っていなかった。その後、ジェームスはアメリカに渡り、アンゼラはヒーチャムと婚約したため、この問題は“ケリ”が付いたと思われていたが、ジェームスが町に戻ってきたために問題が再燃したのだ。
「…あんなノラクラ息子のベルフォードなんかに姪の金をやたらに使われてたまるもんですか」
コンスタンスはアンゼラがジェームスと結婚すると、彼に財産を食い荒らされると思っていたのだ。
そこで、コンスタンスはアンゼラとジェームスが結婚した場合、4年間は一銭もアンゼラに財産を渡さないという旨を、ジェームスに会って伝えてほしいとエムズワース伯に頼むのだった。
エムズワース伯の頭の中は黒豚のことばかりだったが、コンスタンスの頼みとあっては断るわけにもいかない。彼は伝言を伝えに、渋々ジェームスに会いに行くのだった。
『最高保守党員クラブ』でジェームスと食事を共にしている時も、エムズワース伯が考えているのは黒豚のことばかり。しかし、重要な伝言を伝える任務が彼にはある。
ところが、ジェームスがアメリカにいた時に農場で豚の世話をしていたことを知ると、任務のことなどどうでもよくなってしまったのだった。
エムズワース伯は黒豚のことをジェームスに相談すると、彼は意外なことを口にし…。
「豚ーやあーあーあーい!」って何のことかと思ったら、そういうことだったのか。

★所収本
・延原謙訳/改造社『世界ユーモア全集2 英米篇』、上塚貞雄訳/「新青年」昭和3年9月号(豚ーやあーあーあーい!)
・岩永正勝・小山太一共訳/文藝春秋『エムズワース卿の受難録』(豚、よオほほほほーいー!)

※上記所収本について、テキストをつき合わせて確認したが、延原謙訳・上塚貞雄(=乾信一郎)訳とも、“てにをは”の若干の違いは認められるものの全く同じものだった。
『世界ユーモア全集2 英米篇』に収められた6作品は、すべて上塚貞雄訳で一度「新青年」に掲載されていることから、『世界ユーモア全集2 英米篇』が編まれる際、何らかの理由で延原謙訳として出されたと思われる(上塚貞雄が「新青年」に翻訳が採用され始めたのは1928<昭和3>年。1928年10月〜1929年7月までは延原謙が「新青年」の編集長を務めており、奇しくも『世界ユーモア全集2 英米篇』所収の6作品はすべて延原謙編集長の時代に出されたものである。推測の域を脱しないが、このことも訳者のアンマッチと関係しているかもしれない)。
                      (2005.6.29/菅井ジエラ)

 

 

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