イギリス・アイルランド文学を読む



      ハーバート・アーネスト・ベイツ「クリスマス・ソング」



楽器を並べた店の2階で声楽を教えているクララは、クリスマスの日が来るたびに雪が降ってほしいと思っていた。
というのは、何の取り柄もないこの街も、雪が降ると華やいで見えるから。でも、今年のクリスマスは雪の代わりに雨がしとしとと降っている。クララはクリスマス・イヴの今日も、工場労働者にジャズの楽譜を細々と売るだけ。その他、彼女の今晩の日程はウィリアムソン家のクリスマスパーティに招待されているだけだった。
ウィリアムソン家のクリスマスパーティには、去年も招かれた。クララは何曲か歌を歌ったが、お酒がたくさん入った男客からの歓声は、もらって嬉しいとは決して言えない代物だった。そのため、クララは今年のパーティは辞退しようと思っていたのだ。
店への来客を告げに2階へと上がってきた妹のエフィに、そのことを話すと、“ウィリアムソンがそんなことを許すはずがない”と言う。クララは返事をせずに下の店に降りていった。

店にいたのは、“茶色のオーバーを着て、茶色のソフトをかぶり、こうもり傘をもった”青年。
ある歌を買いたいのだが、何というタイトルなのかが分からないと話す彼に、「クリスマスの聖歌ですか?」と聞くクララ。
「いいえ、普通の歌です…普通のクリスマス・ソングです」
「歌詞を少しでも覚えていらっしゃるなら」
「それがだめなんです…ドイツのものじゃないかと思うんですが」
「それなら、もしかしたら、シューベルトの曲ですわ」
二人で2階の音楽教室に行って、クララはシューベルトの曲を2、3歌ってみせたが、お目当ての歌ではない。
「思い出しになったらまたいらしてください」とクララは言って、彼を見送った。
その後、8時頃に両親はエフィと一緒にパーティに出かけた。そして9時に、今度は外からフレディ・ウィリアムソンがどなる声が聞こえた。
「パーティにこないと言うのは誰なんだ。さあ、早く窓を開けろ」
強引にクララをパーティに連れていこうとするフレディに、折れてしまう彼女。
「では、いいわ。私に着換えさせて!…待っている間、もう一杯飲んでいてちょうだい」
と、そこへ日中に店にきた青年が再びやってきた。……。
それぞれのクリスマス模様。みんなが幸せな時間を過ごせますように。
(大津栄一郎訳/福武文庫『クリスマス・ソング』所収)
                      (2006.12.24/菅井ジエラ)


 

 

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