イギリス・アイルランド文学を読む



グレアム・グリーン「八人の見えない日本人」



グレアム・グリーンは『ブライトン・ロック』『情事の終わり』『事件の核心』などで知られる、20世紀を代表する英国作家のひとり。映画好きな方なら誰でも知っているだろう、オーソン・ウェルズの快演でも知られる『第三の男』も彼の筆によるものだ。
そんな彼の数ある作品の中で本編を選んだのは、内容そのものではなく、作品タイトルに惹かれたため。
邦訳で10ページにも満たない掌編であるが、こんな選び方があってもよいのではないかと思い、紹介する。
“わたし”は食堂で日本人の団体客を目にし、珍しげに少しの間観察していると、彼らの席をはさんだ向こう側のテーブルから女性の声が聞こえてくる。彼女は恋人らしき男性と一緒だったが、聞こえてくる内容から察するに、“わたし”と同じ出版業に携わる人間のようだった。
物語はその彼女がもうすぐ結婚するという恋人に向かって話す内容について、“わたし”が思うことを吐露するというシンプルなもの。しかし、話の途中に入る、8人もの日本人団体客の描写がアクセントになっている。
私は読解力がないため、グリーンがここでなぜ日本人団体客を登場させたのか、そのことに当時の社会的・文化的背景が関連しているのかどうかは分からないが、この掌編に純文学ものとスパイ・スリラーものの両方を得意とするグリーンならではの持ち味が少し垣間見られるような気がした。
(西崎憲訳/筑摩書房『英国短篇小説の愉しみ1 看板描きと水晶の魚』所収)
                      (2004.9.13/菅井ジエラ)

※最近になって、グリーンはハヤカワepi文庫(早川書房)からセレクションとして刊行されている。
同じく早川書房から、かつて出ていた作品集のどこまでが刊行されるのか知らないが、廉価(?)でグリーンのような作家が読まれるようになるというのはとても喜ばしいことと思う。

 

 

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