P・G・ウッドハウスを読む



「過去からの声(The Voice from the Past)」
(1931)


いつもの倶楽部で話題になっていたのが、近くの公立学校で新しく校長先生になったスクラビイ・ベンガーという男性のこと。
酒場の常連であるスタウト居士が、ベンガーと幼なじみで彼の人となりを知っていて、“ベンガーを校長にするとは何事だ”というのである。
その話の一部始終を聞いていたのがマリナー氏。スタウト居士は校長恐怖病にかかっているのだと言って、同じ病気にかかった自分の甥の話をぜひ聞いてほしいと話し出した。

甥の名前はサシュヴェレル・マリナー。小さな頃はどちらかと言えば病身で、15歳になると、両親が学校を止めさせ、家庭教師を雇っていた。それが良くなかったのか、サシュヴェレルはマリナー氏によく、「学校長が割れた瓶を噛んだり、若い生徒を食べたりする」という主張を繰り返していたという。
そんな“自信”というモノをまったく持ち合わせていないサシュヴェレルだったが、彼にもミュリエルという名の婚約者がいた。婚約者の彼女が言うには、自分は幼い頃から自信満々の青年だらけの中で育てられたせいで、潜在的にそのような性格の男性に抵抗感を感じ、逆に引っ込み思案の男性に母性本能をくすぐられるのだそうだ。
しかし、ふたりの結婚の前に、サシュヴェレルが済ませておかなければいけない重大なことがあった。それは彼女の父親への挨拶だ。彼女の父親であるレドヴァス・ブランクサム卿は陸軍中佐で、周りの荒くれどももたじろいでしまうほど。ミュリエルが“彼はゴリラよ”と形容するほどの強者だった。
その後、三人の面通しは済んだが、結果は完全な失敗。ミュリエルに、“父が共感してくれそうな知識を会得しさえすれば、父も大喜びしてきっとうまくいく”と言われたサシュヴェレル。
「…この間雑誌を読んでいたら、殆ど何でも教える通信教授の広告をみつけたのよ」
家に帰ったら、それに申し込んで勉強してほしいと頼まれたサシュヴェレルは、彼女の言葉通り、通信教育を始めたのだが…。
違う内容の通信講座を間違って受けてしまったがために、巻き起こってしまう大騒動。
彼とミュリエルとの結婚は一体どうなってしまうのか。
冒頭の校長恐怖病とどういう関係があるのかと思いながら読み進めていたが、こんな風につながるとは。
ウッドハウスはどんな思考回路でプロットを考え出すのだろう。で、そもそも校長恐怖病って…?

★所収本
・長谷川修二訳/東成社『玉子を生む男』(過去からの声)

                      (2006.9.26/菅井ジエラ)

 

 

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